北分館の将来像

−全学教育全面支援と北キャンパス高学年次学生へのサービス充実−
附属図書館北分館長 吉野悦雄
 

はじめに

平成7年4月より北海道大学でも学部一貫教育体制が実施されました。そして主として低学年次学生を対象とする全学教育は,そのほとんどが旧教養部庁舎で開講されることとなりました。これを受けて,高等教育機能開発総合センター(旧教養部庁舎)に隣接して設置されている北分館の存続が決定されましたことは巻頭の原館長の論文にあるとおりです。
旧教養分館は,教養部の廃止に伴い平成7年4月に北分館と名称変更となりましたが,学部一貫教育の実施に伴って北分館のあり方についての再検討が本格的に行われたことはありませんでした。むろん手をこまねいていたわけではありません。この2年間で,平日の夜間開館の実施,図書検索端末機器(OPAC)の増設や,インターネット端末機器の設置など地道な改善を行ってまいりました。しかし,北分館のあり方と将来像の検討は,平成9年9月11日の第121回北分館委員会で議題として取り上げられるまで,本格的に検討されることはなかったのです。本稿では,この北分館委員会での議論を踏まえて,北分館の将来像について述べてみたいと思います。
北分館の利用の現状
将来像の検討に際して,利用の現状を認識することから始めました。主要な5点のみを以下に紹介します。
1)BDS装置(自動入退館管理装置)の導入とそれに伴う開架閲覧室への鞄等の持ち込みの自由化 伴い,二階の開架閲覧室の利用が頻繁になり,座席数が不足するという状態が顕著になりました。 一方,一階と三階の自由閲覧室(従来から鞄等を自由に持ち込めた閲覧室で,図書等は配架され ていない)の利用頻度が低下しました。
 
2)貸し出し図書の統計によれば,高学年次学生(2年後期から4年生まで)と院生の利用が合計で 50%を超えていることが分かりました。逆に言えば全学教育の対象である低学年次学生の割合 は5割を切っています。高学年次学生・院生における利用者数が最も多い学部は工学部で,以下 理学部など自然系学部がこれに続きます。このことは,あまり知られていない事実です。私も分 館長に就任するまでは,低学年次学生の利用が主であると考えておりました。
 
3)新入生の図書館利用に際して,適切な利用ガイダンスが実施されておらず,新入生が直ちに図書 館を十分に活用するには至っていないということも分かりました。また学生に対する図書レファ ランス機能のサービスを充実する必要性を感じました。
 
4)マルチ・メディア化時代を迎えて,端末機器が導入されましたが,その台数はまだ不十分であり, しばしば順番待ちの現象が観察されます。また学生が自分のノート・パソコンを利用して,文献 を整理したりレポートを作成する作業を支援する体制は全く整っておりません。また学生がグル ープで議論し集団で図書を利用するという環境も整備されていません。
 
5)視聴覚教材は,講義においてのみならず,学生の自学自習にとっても極めて有効であります。四 階には中規模の視聴覚室が設置されていますが,21年前に設計されたものであり,機種も20年 前のものであり,現在ではほとんど利用されていません。新しい時代に対応した視聴覚学習の支 援機能を充実する必要を感じました。高等教育機能開発総合センターの改築計画では,視聴覚教 室の充実が検討されています。北分館では主に学生の自学自習の視聴覚学習を支援していきたい と考えています。
 

全学教育全面支援

以上のような現状認識にたって,北分館が全学教育を全面的に支援していくことは当然のことでしょう。また,そのためにこそ北分館の存続が決定されたわけです。学生が15分間の休憩時間に図書の貸し出しと返却を行うためには北分館が現在の場所に存続することが必要です。昼休みは学生の交流の時間としても重要ですし,夕方はクラブ活動とアルバイトの時間となっています。基本的には15分間の休憩時間内に図書館が利用できることが望まれます。高等教育機能開発総合センターに隣接する北分館は,以前にもまして全学教育を全面的に支援する必要があると考えています。
では,当面どのような方策で学生の学習を支援できるでしょうか。北分館では,まず二階と三階を統合して開架閲覧室とする計画案を現在検討中です。これが実現すれば開架閲覧室の座席数が拡大するだけでなく,開架の図書数も増加させることができます。また従来,一般学生にとって書庫への立ち入りは原則としてできませんでした。この書庫のうちかなりの部分を一般学生にも開放したいと考えています。これにより学生はより多くの図書に直接に接することができるようになります。また受験勉強直後の学生にあっては自発的に読書をする習慣がないため,適切な手引きが必要です。北分館では平成9年9月より『教官による図書紹介コーナー』を北分館のホームページの中に開設しました。最初の試行として10名の先生方に特にお願いして数冊の推薦図書とその推薦文を書いていただきました。その結果は,これら推薦図書の貸し出しが顕著に増加するという効果をもたらしました。今後はより多くの先生方に推薦図書の推薦文を書いていただきたいと考えています。このように北分館ではホームページも大いに活用していく方針です。学術情報リテラシーのガイダンスなど利用者講習は既に平成9年秋から実施を開始いたしました。今後はこれをさらに充実させていく方針です。これらのことは現状の予算・人員の枠の中で実現可能な全学教育支援策です。
一方,予算の関係がありますので直ちには実現できませんが,情報端末機器の増設も不可欠でしょう。視聴覚教材も充実させていく必要があります。さらに重要なことは学生の行動パターンが変化してきて,学習の場所が自宅から大学に移動してきている現状に対応するため,とりあえず土曜日の北分館の開館が特に望まれます。また最近の学生の気質を考慮すると,グループでまとまって図書を読み仲間で議論をし,レポートを作成するということが効果的です。現在の四階の演習室を廃止してグループ自習室に転換することを検討してみたいと考えています。これらのことは中・長期的検討課題です。
北キャンパス高学年次学生へのサービス充実
既に述べましたように,北分館の利用者の半分以上は高学年次学生と院生です。利用学生の意見を聞きますと,北キャンパスのいくつかの学部では学部図書室が狭隘で座席数が不足しているケースがあります。また高学年次学生にとってさえ学部図書室は心理的に敷居が高いということもあるようです。しかし最も重要な点は,北分館の蔵書が相当に充実しており,学部図書室にいかなくても北分館でだいたいの用は足りるという意見が聞かれたことです。旧教養部時代以来,物理・化学・生物・地学の先生方は基本的な図書の推薦に心を砕いてくださりました。この努力があってこそ上述のような意見が聞かれるのです。さらに重要な点は,北分館の蔵書構成が,単一部局の図書室とは異なり,複合領域にまたがり学際的性格をもっているということです。医学部の学生が電気についての基本的文献を探す場合,あるいは工学部の学生が細胞学の基本的文献を探す場合,足が自然に北分館に向かうことは当然のことと言えましょう。また文学書や歴史書の並んでいる閲覧室で専門課程の勉強ができるということも魅力になっているようです。将来の自然科学系スペシャリストのための全人教育・生涯教育という観点からも図書館の重要な機能と考えます。
北分館は従来より言語文化部の研究支援機能と図書保存機能を担ってきました。この方針は今後も変わりません。しかし北分館が,北キャンパスのその他の部局の図書室機能,すなわち自然系の研究支援機能や図書保存機能を全面的に引き受けるという状況にはありません。学部図書室には学部図書室としての役割があるからです。このような状況にあっても,北分館の利用の現況をみるとき,現状の図書職員の人員と現行の予算の枠の中で,北キャンパス高学年次学生へのサービスは充実できるし,また充実していかなければならないと考えています。
ではどのような方策でこれが可能でしょうか。まず,全学教育全面支援の項で既に述べましたが,二階・三階の統合が実現すれば,開架閲覧室の座席数を増加させることができます。これは副次的効果として高学年次学生へのサービス充実にもつながります。また開架閲覧室に配置されている複本(同じ図書が10冊・20冊と配架されていること)の数を適正化して,配架スぺースを作り出して,そこに書庫の中に保存されている専門的性格(準専門的性格)の図書を移動させます。このようなことは従来の予算の枠の中でも実行可能です。低学年次学生向けに整備されてきた図書の中には,専門課程の学生にとっても有益な図書が少なくないからです。
また今後他大学から入学してくる大学院生が増加していくであろうことを考えると利用者ガイダンスの講習会なども,本館と併せて開催していきたいと思います。レファレンス・サービスも充実させます。
蔵書構成についても幅広い検討を経て再検討する必要があるかもしれません。一つの例ですが,平成7年度から水産学部が高等教育機能開発総合センターにおいても専門科目の講義を開始しました。これに伴い,これら専門科目の教官選定図書を函館ではなく札幌キャンパスに備える必要性が生じました。その結果,平成9年度においては,水産学部の教官選定図書が札幌キャンパスに配架されました。高学年次学生へのサービス充実だけでなく,低学年次における専門教育科目の学習支援をどうしたらよいかという点を全学的に考える時期にきているように思います。
高学年次学生・院生へのサービス充実に関しては,パソコンによるマルチメディア学習への支援ということが最も求められています。この要望は本館・分館ともに共通する問題です。すなわち学生・院生が図書館の中で,図書を利用しつつ,パソコン上でレポート・論文が作成できるようにしたいという要望です。この要望は早急に実現できるように検討を開始しております。
しかしながら,マルチメディア時代に本格的に対応するためには,分館にあっては,四階の再開発が不可欠です。これは大きな予算を必要としますので,中・長期的課題として検討していきたいと考えています。
おわりに
以上,現状の設備・人員・予算の範囲内で実現可能な改善案と長期的構想としての『夢』とをとりまぜてご紹介いたしました。全学教育全面支援のために北分館の存続が決定されたことと,北キャンパス高学年次学生へのサービスを充実させていくという新しい方向の模索とは,従来の北分館のありかたを大きく変えることになるでしょう。今後とも北分館へのご支援をお願いする次第です。
(よしの えつお,経済学部教授) 

◆前の記事へ戻る

◆次の記事へ移る

目次へ戻る

ホームページへ戻る