アメリカ合衆国東部の図書館を訪ねて


情報システム課学術情報掛長 菅原英一

1.はじめに

 平成7年度の北海道大学国際交流事業基金により,平成7年10月1日 から10月14日までの2週間,アメリカ合衆国東部の図書館を見る機会 を得た。 今回の訪問先は以下のとおりである。 ① 米国議会図書館(ワシントンDC) ② メリーランド大学図書館(ワシントンDC近郊) ③ シカゴ大学図書館(シカゴ) ④ ニューヨーク公共図書館(ニューヨーク)  アメリカ合衆国の図書館については,それまで図書館学の文献などを通 しての知識しかなく,その実際の姿を出来るだけ目にやきつけたい,と多 少気負いながら,10月1日成田を飛び立った。

2.米国議会図書館

       (米国議会図書館中央閲覧室)

 ワシントンDCでの最初の訪問先である米国議会図書館では,まず,J
ames H. Billington館長自らが中心となって推進して
いる「電子図書館プロジェクト」の展示室(Visitors’ Cen
ter)でマルチメディア・データベースを含む電子図書館化の現状を見
学することになった。Visitors’ Centerは米国議会図書
館三館のうちのマジソン館1階中央部にあり,全部で十数台の端末がテー
マごとに数台ずつ配置されていた。“National Digital
Library”と位置付けされた「電子図書館プロジェクト」のデモの
テーマは次の6つである。
1)LOCIS (Library of Congress Info
rmation System)
 4,000万件をこえる米国議会図書館の目録情報で,図書・雑誌・楽
譜・写本・視聴覚資料その他の情報が検索できる。
2)WWW
 主要な展示会などの画像情報を含んだ情報を,HTML形式でテキスト
及びイメージを編集して提供する。ジェファーソン館で開催されていた
“Creating French Culture”という展示会のデ
ータを見て概要を知ったあと,展示会そのものを見学してより印象を深め
ることが出来た。
3)American Memory
 Mathew Brady南北戦争コレクションからの貴重な写真をは
じめとして,絵はがき,レコード,文書など約20万件の資料が電子化さ
れた,アメリカの歴史に関する資料の動画像・音声を含んだマルチメディ
ア・データベース。
4)LCMARVEL (Library of Congress M
achine Assisted Realization of th
e Virtual Electronic Library)
 米国議会図書館の行事予定,“Library of Congres
s Information Bulletin”のフル・テキストなど
米国議会図書館に関する種々多様な電子情報を提供する。
5)Copyright Imaging System
 デジタル化された著作権情報の提供。キー・ワードなどによる検索も可
能である。
6)CD‐ROM Network
 商用のものと政府が刊行するCD‐ROMデータベースの提供。
 このように様々な側面からの電子図書館化が行われている。そして,他
館との協力のもとでではあるが,西暦2000年までに500万件の文献
の全文データベース化を行う計画である,とのことであった。
 Visitors’ Centerでのデモ内容の多くは現在インター
ネットを通して見ることができる。利用者にとってはそれで充分なのかも
知れない。そして,米国議会図書館のホームページも北大図書館のホーム
ページもインターネット上のアドレスとしては等価なアクセス対象として
存在しているのかも知れない。ただ,米国議会図書館の先進性や先端性か
ら多くの恩恵と影響を受けてきた側にとって,作成現場などホームページ
の裏側での活動こそがなにごとかであるはずだと思った。私はそのごく一
部を見てきたに過ぎないが,それでも,人的・経済的資源のすごさをうか
がい知ることができ,目的を指向する徹底性に目を見張るばかりであった。
 例えば,M.K. バックランドの『図書館サービスの再構築』(勁草
書房,1994年刊)は次の言葉で締めくくられている。
 「これまで図書館のサービスは身近な図書館の目録や蔵書によって規定
され,図書館サービスに地域格差が生じていた。しかし,図書館サービス
の制約条件は今まさに変わりつつある。これは紙や図書館の蔵書をなくそ
うと言うのではない。誰もそのようなことを言っていない。これらの変化
によってわれわれは図書館の使命と役割,サービス提供の手段についても
う一度考え直すことを求められている。過去100年の間で初めて,われ
われは図書館サービスを再構築するという,困難ではあっても,またとな
い素晴らしい機会に今,直面しているのである。」
 電子図書館化はこれからの私たち図書館員の活動を大きく左右する重要
な流れであることは誰も否定しないと思われる。そして,それは紙メディ
アを通した図書館サービスとの融合のなかから実現されていくであろうこ
とも確かであると思われる。電子図書館化の背景には伝統的図書館活動の
膨大な蓄積がある。米国議会図書館での電子図書館化はあたかも摂理のよ
うに進行しているのだ,と感じた。

3.メリーランド大学図書館

    (マッケルディン図書館目録室)

 当日は朝から強い雨で,地下鉄をあきらめ,ホテルからタクシーで30
分程かけてワシントンDC近郊のメリーランド州カレッジ・パークにある
メリーランド大学図書館(マッケルディン図書館)に到着した。
 マッケルディン図書館では,戦後の日本駐留米軍による検閲資料(図書
,雑誌,新聞等)の収集で有名なプランゲ文庫,そして,メリーランド大
学図書館全体のコンピュータ・システムを統括する情報技術部を訪問した。
 プランゲ文庫では,ボランティアの学生を含む約20名のスタッフが目
録業務や資料の補修,装備などにあたっていた。また,劣化の進んだ原文
献のマイクロ化も同時に行われていた。
 “Victor”と命名されているメリーランド大学のOPACからは,
同大学図書館の総合目録や全米の大学の目録のほかに,ERICや
UnCoverなどが簡単に検索可能となっている。
 “Victor”を含むUniversity of Marylan
d Systemはメリーランド州の他大学や公共図書館を含んだ広域の
システムである。また,マッケルディン図書館は,SURAnet(So
utheast Universities Research Ass
ociation network)というアメリカ東部14州を結ぶネ
ットワークのノード図書館にもなっている。このネットワークには大学図
書館だけではなく,公共図書館や政府機関も接続しており,アメリカ図書
館のネットワーク化において館種の違いはそれほど問題ではないことが示
されていて興味深いものがあった。

4.シカゴ大学図書館

 シカゴ大学は学生1万人のうち大学院生が7千人というアメリカ有数の 大学院大学である。シカゴ大学図書館(リーゲンスタイン図書館)では, 研究図書館の使命に適合する図書館資料の収集方針及び他館との協力関係 の押し進めていくことの重要性,或いは,図書館の機能の変化に対応する 形での図書館サービスの再構成等について有益な助言を得ることが出来た。  そのなかで,「アメリカの大学図書館では最近,経営という観点が重要 視されてきており,Library school出身の人よりBusi ness school出身の人が要職を占める傾向がでてきている。」 という,東アジア図書館日本部長奥泉栄三郎氏の言葉が印象に残った。

5.ニューヨーク公共図書館

 ニューヨーク公共図書館(中央研究図書館)はマンハッタンの五番街に 面している。公共図書館とは言っても,4つの研究図書館(閲覧のみ)と 82の支部図書館(貸出可)を擁し,職員数は全体で約2,500人にの ぼる大図書館である。蔵書数も図書だけで約1千8百万冊と北大全体の蔵 書数の6倍以上である。一般市民だけではなく,大学の研究者や学生の利 用にも耐え得る蔵書構築やサービスの展開に図書館員自身が大きな自負を 持っていることが感じられた。

6.おわりに

 それぞれ性格の異なる図書館のデータベース構築或いはサービスの現状 の視察から,どの図書館においても,「情報」の収集(構築)及び提供に 対して,並々ならぬ自信と洞察力を持っていることを認識することが出来 た。それは,今回紹介した図書館以外の,例えば,ジョージタウン大学図 書館(ワシントンDC)やシカゴ公共図書館(シカゴ)などについても同 様に言えることである。  大学図書館の主たる目的が教育・研究の支援にあることは言うまでもな い。このことが広い展望の中で実現されていく過程で,アメリカの図書館 のデータベース構築等の進展状況は,現在なお本学図書館が参照して得る ものがある大きな現実である,と感じた。  アメリカの図書館を初めて訪れた多くの人が感ずるに違いないと思われ る,日米の相違,あるいは,単なる外国体験に還元されない核のようなも のの存在は何に由来するのだろうか,ということに脳裏を埋め尽くされた 状態で,私は,10月13日ニューヨークのJFK空港から帰国の途につ いた。  最後になりましたが,今回の出張にあたって,本部事務局の皆様をはじ め,附属図書館の皆様から多大なご配慮をいただき,お礼申し上げます。                       (すがわら えいいち)


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