図書に関する異種情報資源の統合的利用方式に関する一検討
                                                                    
  情報システム課目録情報掛  杉田茂樹

国立情報学研究所セミナーについて

 平成12年度「国立情報学研究所セミナー」が,平成12年6月19日から12月15日までの約半年間にわたり実施されました.このセミナーは,従来「学術情報センターセミナー」として行われていたものです.平成12年度の参加者は東京工業大学附属図書館の五十嵐裕一さんと三重大学附属図書館の木下聡さん,それに私の3名でした.
  国立情報学研究所セミナーにはとくに講義といったものがありません.受講生は同研究所の担当教官の指導をうけながら,各自が設定した主題について研究を行います.そして最後に「研究成果発表会」という場でそれぞれ研究してきた内容についての報告を行い,「研究レポート」を提出して修了となります.以前は,期間を通じて学術情報センター(現国立情報学研究所)に滞在する形態で実施されていましたが,今回から,国立情報学研究所と本務地を数週間おきに行き来しながら受講する形態になりました.本務地では通常の図書館業務の傍ら,電子メールで担当教官の先生から指導を受けつつ,研究を進めました.
  東京工業大学の五十嵐さんは「図書館内での利用に適したPC」という題材をとりあげられました.
  図書館館内で運用される利用者向けパーソナルコンピュータには,運転中のモーター音などの静粛さ,運用上の安定性,不慮の障害時等における復旧作業の簡便さなどが求められます.五十嵐さんは,内容の変更が不可能な外部記憶装置から起動し,主記憶のみを用いて稼働する,Linuxベースのシステムを提案しています.本学図書館でも,蔵書検索用端末や,インターネット利用のための「情報ターミナル」など,多くのパーソナルコンピュータが来館者向けに開放されています.これらは通常の市販製品であり,ハードディスクを装備していますので,モーター音が発生します.1台1台はさほどではないにせよ,数台〜十数台を並べると,とくに閲覧室のような静粛な環境では,それが騒音として感じられることがあります.また,しばしばシステム内の状態変化によって正常な運転ができなくなり,復旧のためにサービスを停止せざるをえなくなることも少なくありません.こうした機器の選定や運用を考えるうえで,五十嵐さんの研究には教えられるところが多くありました.
  三重大学の木下さんは「WWW型遠隔学習における教師と学習者の支援」という題目で,分散環境を想定した教育支援システムを試作されました.
  衛星通信やネットワークを介したコンテンツ配信が普及し,また生涯学習という言葉がしばしば聞かれる昨今,通信教育を支える技術は,今後ますます必要とされてくるのではないかと感じられます.木下さんの提案したシステムでは,教科書データ作成から,運用時における学習者相互のコミュニケーション支援までがカバーされています.分散した環境下での学習というと,教師と学習者との1対1の関係がイメージされますが,このシステムでは,同一の関心,問題意識を共有する学習者の間にグループの形成を促すような構想が含まれており,とくに興味をひかれました.また,教科書データ作成機能の部分では,JavaScriptというプログラミング言語により,だれもが,各自の使いなれたWWWブラウザ上で,それとは意識することなくXML形式の構造化文書を作成できるとのことです.この手法は,たとえば事務文書のフォーマット統一化や,系統立った管理・利用といった方面にも応用が可能なのではないかと思いました.
  私自身は「図書に関する異種情報資源の統合的利用方式に関する一検討」なる題目で,図書館のオンライン目録とインターネット上の書評コンテンツを統合的に利用するシステムを試作しました.以下に簡単にその概要を述べます.

個別研究の概略

  図書に対する関心には『○○について書かれた本を読みたい』というタイプのものと『○○という本が読みたい』というタイプのものとがあります.今回のセミナーでは,後者,つまり,
   
   ● ある本を読もうかどうか迷っている
   ● 買おうかどうか迷っている.
   ● 今読んだ本について他の人の感想を聞いてみたい.

というようなケースで役に立つよう,インターネット上の書評コンテンツおよび図書館の所蔵情報を一括提供するシステムを考えることにしました.

  数年前までは,ネットワークを介して得ることのできる図書に関する情報というと,図書館のオンライン目録や,市販の文献情報データベースなどが主なものでした.しかし,近年ではインターネットとくにWWW利用の一般への普及にともない,ネット上には図書に関しても多種多様な情報資源が大量に発生して利用可能になってきています.出版社や流通業者は販売広告や紹介記事,書評などをWWWで提供していますし,また気に入った本をその場で発注できるサービスもあちこちで始まりました.一方,読者の側でも,読んだ本の感想をメインコンテンツとするサイトが多数活発に活動しています.図書の情報をオンラインで入手したい人にとっては好適な環境がしだいに整ってきつつある状況であると言ってよいでしょう.
  さて,特定の図書についての情報を幅広く求めたい人にとって,こうしたインターネット上の情報資源に効率よくアクセスするにはどのような方法があるでしょうか.現状ではWWWのサーチエンジンの利用が考えられます.しかし,さまざまな関心を持った不特定多数の利用者の検索要求に対応すべく設計されたサーチエンジンからは,書評を探索する利用者にとって必ずしも最適な検索結果集合が得られるとは限りません.
  難点のひとつは,利用者にとって検索に用いるキーワードの選定が難しいという点にあります.たとえば書名をキーワードに用いて検索を行うと,とくにその書名が一般的な語彙である場合など,当該図書について書かれた文書以外の大量の文書がヒットしてしまいます.また,逆に特定性が高いと考えられるISBN(国際図書標準番号)による検索では,ISBNが記述されていない文書が検索結果から洩れてしまいます.
  もうひとつの難点は,仮に,適切な検索結果集合が得られたとしても,ユーザはそこで発見したWWWページをひとつひとつクリックしながら巡回しなければならないことです.さらに,ネットワーク上のコンテンツはデザインも構成もさまざまですので,文書中の本来読みたい箇所を見つけ出すのに苦労することも少なくありません.
  図書館のオンライン目録には,書名や著者名をはじめとして,図書情報を探索するにあたって助けになりえそうなデータが含まれています.今回の研究では,上にあげた難点を解消することを目指し,図書館目録を援用したシステムを試作しました.
  試作したシステムは,WWWブラウザをユーザインタフェイスとし,ISBNで図書情報の検索を行うものです.ISBNを投入すると,システムは自動的に図書館のオンライン目録にアクセスします.そして,そこから書名や著者名などの書誌情報を引き出し,次に,あらかじめ用意しておいたネット上の情報資源の索引に対し,問い合わせを行います.さらに,問い合わせの結果得られた集合に含まれるコンテンツを順次走査し,フィルタリング,ランキングののち,書評の内容を一覧表形式で検索結果として提示します.さらに目録検索システムからは所在情報も得られますので,利用者は関心対象の図書が図書館にあるかどうかを併せて知ることができます.
  セミナー期間の前半を,ネット上の書評コンテンツの特性調査と仕様の検討にあて,期間後半で実装を行いました.仕上り具合については,検索スピードが実用レベルには程遠い点をはじめとして,フィルタリングの性能,ランキングの性能等,課題は山積みですが,ひと通りの動作を確認できました.使いどころとして,所在情報と書評とを併せて提示するような目録検索システムの拡張といった用途も可能かと考えています.

おわりに

  日常の図書館業務では,つい実用性や即効性ということを主眼にものを見てしまいがちで,それが半ば習慣になっていました.今回のセミナーでは,そんな自分の頭を研究ベースでの視点へと切り替えるのに,期間の大半を費してしまったような感覚です.それが,今回取り組んだ研究そのもの以上に,大きな刺激であり収穫でした.興味深い分野について,半年間にわたって,集中して考えにふける機会を持てたことに感謝いたします.
  最後になりましたが,ご指導下さいました国立情報学研究所の宮澤彰先生,江口浩二先生,NACSIS-CATデータの使用に配慮をいただいた同開発・事業部コンテンツ課のみなさま,セミナー期間を通じお世話いただいた同国際・研究協力部成果普及課のみなさま,ならびに研修の機会を与えて下さった北海道大学附属図書館に深く感謝いたします.
国立情報学研究所セミナー
   http://www.nii.ac.jp/hrd/HTML/Seminar/ 
研究レポート 


   http://www.nii.ac.jp/hrd/HTML/Seminar/h12/sugita.pdf

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