ライブラリ−セミナ−特集

 
医学部図書館におけるデータベース検索ガイダンス
                   
1.はじめに
 
 医学部図書館では,昨年9月から,医学部5年次学生を対象とした授業の中でデータベース検索のガイダンスを行っています。このような継続的なガイダンスの実施は医学部図書館としては初めての試みであり,当初は不安の中で始めましたが,開始から約半年が経過し,講師をつとめることにもようやく慣れてきました。
 そこで本稿では,ガイダンスについて紹介するともに,ガイダンスを通じてわかったこと,今後の課題などについて述べてみたいと思います。
 
2.ガイダンスの概要
 
 ガイダンスは,医学部5年次学生を対象とした授業「臨床実習コース」の中の「医療情報学実習」の一部の時間を使って行っています。実習を担当する櫻井恒太郎教授(医学部附属病院・医療情報部長)より依頼があり,それを受ける形でガイダンスは始まりました。
 医療情報学実習の目標は「臨床実習指針」によれば,1)臨床での問題解決に当たっての情報の集め方,情報源を知り,方針選択の根拠を提示できる,2)生涯学習のための種々のメディアの使い方を知る,3)判断樹(decision tree)による方針の評価法を身につける,の3点です。これらの目標を達成するために医学部図書館が担当している部分は,情報を集める際に利用する文献データベースの検索法,具体的には医学中央雑誌CD-ROM版(以下,単に医学中央雑誌と呼ぶ),MEDLINE(メドライン)の簡単な検索法のガイダンスです。図書館員1名が講師となり,受講生は各回5〜6名,所用時間は約1時間20分で,隔週木曜の午前9時より行っています。
 ガイダンスを行うデータベース,医学中央雑誌,及びMEDLINEは,いずれも附属図書館においてサービスしている「オンラインCD-ROMデータベース」の一つで,医学関係の文献を検索するのに必要不可欠なデータベースです。医学関係の研究者にとって,これらのデータベースなしには研究が成り立たないといっても過言ではありません。医学中央雑誌は,日本国内で発行された医学,歯学,薬学,及び関連領域の雑誌約2,400誌から文献を収録しており,北大では1987年からのデータをオンラインで検索できるようになっています。またMEDLINEは,米国の国立医学図書館(National Library of Medicine)が作成している医学関係のデータベースで,こちらは米国だけでなく世界中の医学関係雑誌約3,900誌から論文を収録しています。1966年からのデータがオンラインで検索可能です。
 医学部図書館にはこれらデータベースの検索用として,医学中央雑誌用,MEDLINE用としてそれぞれ2台,計4台のWindowsパソコンが設置されています。ガイダンスはこの4台のパソコンを使って行なっています。ガイダンスは,最初に医学中央雑誌,次にMEDLINEについて行いますが,同時に使えるパソコンは2台ずつですので,受講生のうち2名が実際に操作し,他の人はその画面を見ながら説明を受ける,という方法をとっています。パソコン一人一台の環境が理想的ですが,現在のところそれだけの台数のパソコンを用意することができません。また仮に用意できたとしても,各データベースは契約上,同時に検索ができる人数が決められていますので,同時に使用するパソコンの台数をあまり増やすと,ガイダンスが行われている時間帯に検索しようとした受講生以外の利用者が検索できなくなる可能性がでてきます。したがって今のところ,現状の受講生5〜6人に対してパソコン同時に2台使用というのが妥当なところと考えています。
 
3.カリキュラム作成のポイント
 
 ガイダンスを実施することになったとき最も頭を悩ませたのが,どのような事柄をどのように教えればよいのかということと,受講生である5年次学生のデータベース検索に関する知識や習熟度はどのくらいなのかということでした。ガイダンスの内容については,幸いにも参考となるテキストがいくつかありましたので,その内容を限られた時間の中でどのように織り込むかがポイントとなりました。受講生に関しては知るすべがなかったため,データベース検索に関しては全くの初心者であると仮定し,内容を組み立てることにしました。
 与えられた時間は1時間半弱と限られており,その中で2つのデータベースの基本的な検索法を説明しなければなりません。データベース一つ一つについて別々に説明をしていたのでは,とても時間が足りません。幸いにも2つのデータベースはどちらも医学関係の雑誌論文を収録したデータベースですし,後発の医学中央雑誌はMEDLINEのいい点を取り入れて作られているようで,共通点が多く見られます。そこで,まず取っつきやすい日本製のデータベースである医学中央雑誌の説明を行うことでデータベースの一般的な構造を理解してもらうようにしました。その後,MEDLINEの説明を行うときには医学中央雑誌と対比させる形で説明を行うことにより時間を短縮し,かつ理解が深まるように工夫しました。
 実際にガイダンスを行ってみると,受講生はキーボード,マウスの操作に慣れた人が多く,そのあたりで手間取ることはほとんどありません。筆者が学生だった10年前と比較すると雲泥の差で,今さらながらに近年のコンピュータの浸透の速さには驚かされます。また,すでにデータベースの検索を行ったことのある人も多く,それらの人からは,こちらが「時間がない」「難しすぎる」などの理由で説明を省略したような比較的高度な内容の質問が出されることもあります。
 また,ガイダンス中にデータベースが使用できないといったことがないように,ガイダンスの行なわれる木曜の午前中はデータベースの更新作業を行なわないよう,担当の附属図書館・システム管理掛にご協力をいただいています。
 
4.データベース検索のポイント
 
 医学中央雑誌やMEDLINEのようなデータベースは言葉(検索語)を入力することによって検索を行います。このようなデータベースの検索を行う際には,ある共通の重要なポイントがあります。それは,同じ概念を表す場合でもいろいろな言葉で表される可能性があるという同義語の問題と,同じ言葉でも違った文字で書き表されることがあるという問題です。
 前者の例としては,例えば“老年期痴呆”という概念を表す言葉には,“老人性痴呆”,“アルツハイマー型老年痴呆”,“Alzheimer型痴呆”,などいろいろなものがあります。後者の例としては,例えば“肺癌”という言葉は,このように漢字のみで書き表されるほかに“肺がん”,“肺ガン”のようにひらがなやカタカナ混じりで書き表されることがあります。したがって,検索を行う際にはこれらのことに十分注意しなければなりません。
 このことに対する一つの解決策は,考えられる限りのバリエーションについてそれぞれ検索を行い,最後にそれらの和集合を取ることです。しかしこの方法は,“肺癌”のようにバリエーションが3つくらいならばいいのですが,“老年期痴呆”のようにバリエーションが多くなると,もれがでないようにするのは大変になってきます。
 これらの問題を解決するのがシソーラスと呼ばれるものです。同じ概念を表す言葉として複数の言葉があるときに,その概念を表す言葉としては他の言葉ではなくこの言葉を採用する,として決められた言葉がシソーラスです。“老年期痴呆”の例では,“痴呆-老年期”がシソーラスになります。また“肺癌”のシソーラスは“肺腫瘍”です。医学中央雑誌やMEDLINEは,いずれもシソーラスを使用した検索ができるように作られています。
 そこでガイダンスでは,検索を行なう際には自分が検索しようと思っている概念をシソーラスで表すとどうなるかを考え,できるだけシソーラスを使って検索を行なうことが必要とする文献を効率よく検索するためのポイントである,ということを強調するようにしています。
 
5.おわりに
 
 インターネットの急速な普及もあり,データベースの検索システムは数年前と比べるとかなり使いやすくなってきています。マニュアルなどを見なくても何か言葉を入力して検索を実行すれば,とりあえずその言葉を含んだ論文を探してくれますので,やもすれば,それで十分であると思ってしまう危険性があります。
 データベースの検索を独力でマスターしたような人でも,前述したシソーラスを使った検索を行なっている人はまれです。これらのことを考えると,ガイダンスには,全くの初心者に検索の基本をマスターしてもらうことのほかに,一通りの検索ができる人に対して,自分一人ではなかなか気づきにくいポイントを解説したり,独力で身につけたバラバラな知識を系統立て,より応用がきくものとして再構築するという意味もあるのだと気づかされます。
 もはやデータベースの検索は一部の研究者や図書館員だけが行なうものではなく,誰もが行なえるような一般的なものとなってきています。その意味で,現在5年次学生の授業の中だけで行なわれているガイダンスの対象を,教官,院生,他年次の学生,講座の秘書など,より広げる必要があります。そのためには,ガイダンスを行なう場所の確保,多くの利用者が参加しやすいようにするには実施する時間帯をどうすればよいかなど,検討しなければならないことが多くあります。また,時間の都合でガイダンスに出席できない人のために,データベース検索上のポイントを解説したマニュアル等を作成する必要もあります。また,単に紙のマニュアルだけではなく,ホームページ上からも見られるような動画や音声を含んだ教材の作成は可能かなど,検討すべき点は数多くあります。
 教官からの申し出を受ける形で始まったガイダンスですが,始まりはどうであれ,それをさらに発展させていくことが図書館の果たさなければならない役割ではないか,と考えている今日この頃です。
(医学部図書閲覧掛 松尾博朋)



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