資料紹介

大型コレクション

『マイクロフィルム版 営業報告書集成第4・5集』について

経済学部助教授 中 西  聡

 このたび附属図書館に収蔵された『マイクロフィルム版 営業報告書集成第4・5集』は、国立国会図書館・東京大学経済学部図書館所蔵の約6,500社に及ぶ企業の営業報告書を、雄松堂書店がマイクロ化したものである。これにより従来本学経済学部図書室に所蔵されていた第1〜3集(一部欠)とあわせ、戦前期日本の主要諸会社の営業報告書の大部分が利用可能になった。

 さて『営業報告書』とは、現在の企業が発行している『有価証券報告書』の前身にあたるもので、各営業期ごとに発行され、その企業の貸借対照表・損益計算書を始め、営業概況や株主名簿等、その企業の営業状況が判明する基本的なデータが収録されており、企業経営の研究をする上で、まず最初に目を通さなくてはならない資料である。ところがこの営業報告書は小冊子であり、散逸しやすい資料であったため、なかなか連年を通して見ることが難しい資料でもあった。今回のコレクションに含まれているのは、明治後半から昭和20年代までの幅広い時期にわたっており、その継続性において優れ、また多くの企業をカバーしている点で比較研究にも不可欠なものとなっている。特に第一次大戦期のブームに乗って設立され、その後短期間に消滅した企業群を相当カバーしていること、第二次大戦期の戦時統制関係の企業の営業報告書が含まれていること、敗戦後昭和24年に有価証券報告書が公開されるようになるまでの空白期間を埋め合わされたことなどに、コレクション上の特色がある。

 このようなコレクション上の特色が可能となったのは、1985年に社団法人日本工業倶楽部から、同倶楽部が創立以来70年近くにわたり収集してきた営業報告書が東京大学経済学部に寄贈されたことによるもので、東京大学経済学部商業文庫に所蔵されていた分と合わせ、それらが第5集としてマイクロ化されたのであった。

 その他第1・2集は個人所蔵、第3・4集は国立国会図書館所蔵の原本を収録しており、第1〜5集までを合わせると、約7,600社の営業報告書が収録されたことになる。そのなかでも特に収録企業数の多い業種は、鉱業(約400社)、食品(約400社)、繊維(約700社)、化学(約400社)、商業(約600社)、金融(約1,300社)、運輸(約700社)、電気(約500社)等であり、その他幅広く各業種にまたがって収録されている。

 いずれにしても、経済史・経営史の研究のみならず、近現代日本の歴史を研究する上で欠くことのできない第一級の資料であり、関心のある方は、是非積極的に利用していただきたいと

(なかにし さとる)



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