21世紀の大学図書館の“ 夢 ”

教育学部教授 竹 田 正 直

(1) 大学の生死

 アメリカのジョンズホプキンス大学(The Johns Hopkins University) の初代学長ギルマン教授(Prof.Daniel Colt Gilman,1831.7.6.− 1908.10.13.) は、渡辺かよ子氏(愛知淑徳大学言語文化研究所)によれば、アメリカの大学院制度の創始者とみなされているとのことであるが、彼は、“図書館は大学の心臓である”と言った。地理学者であったギルマンは、実際、大学で地理学の教授としての研究・教育活動とともに司書の仕事も兼務した。彼は、ドイツとロシアに学び、自分の大学に、学問の自由の理念を導入し、大学院を設置し、非常勤講師制度の新設、大学紀要の創刊、大学の公開講座、地域への大学開放を率先して行い、今日の社会へ開かれた大学の在り方の基を形成した人である。

 “図書館は大学の心臓である”ということは、図書館の在り方や活動に、大学の生死が直接かかわっているということである。 人間の心臓疾患には循環器の内科や外科の医師が治療にあたっているように、北海道大学の図書館にとって、今、本学附属病院のような循環器の名医が、それも一人だけではなくさらに沢山の名医たちが、その診断や治療のために求められている。

(2)“夢”を語ること

 しかし、診断や治療(手術等)以前の問題、つまり、国民的な医療の啓発、健康教育の問題をあわせもつのかもしれない。高地にのぼったり、水中に入ったり、火事などの事故にあって、はじめて、人間が空気の重要性にきづくように、日々、順調に鼓動していると感ずる心臓の重要性は、重大な心臓疾患に遭遇して、はじめてきづく。それと同じように、現在の図書館職員・司書や関係者の必死の努力で改善され、維持されている“大学の心臓=図書館”の重要性も、過ぎ行く日常性のなかでは、なかなか、きづかれない。

 したがって、大学図書館の“夢”と現実を語ることは、とりわけ“夢”を語ることは、現実を見詰め直し、あるべき未来を考え、現実からあるべき未来への架け橋の一助となるかも知れない。多くの人たちが夢をもち、多様な夢のなかの共有部分がふえてくれば、あるべき未来への架け橋はより太いものとなり、未来の現実への架け橋に変わるにちがいない。そのうえ、夢といっても、実際の夢がそうであるように、夢の多くに現実と切り結んでいるものがある。

(3)21世紀の大学図書館

 そういう現実と切り結んだ21世紀の北海道大学附属図書館の“夢”として、『附属図書館新営構想に関する報告書 〜 21世紀をひらく大学図書館をめざして 〜 』が、本年(平成10年)3月に北海道大学附属図書館から出された。 これは、三本木孝館長時代の平成7(1995)年10月24日の第161回図書館委員会での基本合意事項にもとづき、吉田宏館長のもとで平成9(1997)年1月17日の第166回図書館委員会で設置された北海道大学附属図書館新営検討小委員会で、同年3月6日の第1回小委員会以来、同年4月からの原暉之館長のもとで9回、合計10回の小委員会討議のまとめをもとに、平成10(1998)年3月17日の第171回図書館委員会で審議・了承されたものである。

 小委員会が設置されて1年、基本合意事項以来、じつに、2年半の検討である。 21世紀を、国際化、情報化、文化の多様化がいっそう進展する時代であり、自然環境と人類の共生の時代、高齢化と生涯学習の時代と特徴づけ、21世紀の大学図書館にふさわしい8つの理念と6つの図書館機図機能を提言している。

 その理念は、

 1)学習、研究等への快適空間と先端機器を有する学術情報図書館

 2)生涯学習時代の社会へ貢献する地域センター的図書館

 3)国際化、情報化、電子化時代の先端をゆく図書館

 4)多文化時代、異文化交流時代にふさわしい図書館

 5)急速な技術とシステムの革新、環境変化に対応しうる図書館

 6)情報の多様化、個別化に対応しうる図書館

 7)人に優しく、落ちついたインテリア、うるおいとゆとりある図書館

 8)緑豊かな自然環境と調和した図書館

の8つである。

 その6つの機能とは、

 1)学習図書館機能

 2)研究図書館機能

 3)地域センター図書館機能

 4)保存図書館機能

 5)電子図書館機能

 6)総合図書館機能

の6つである。

 また、新営のさいの敷地としては、平成9(1997)年2月19日の評議会で了承された「北海道大学キャンパスマスタープラン96」で、文系学部北側に配置された附属図書館を含む「総合学術コンプレックス」を予定している。

(4)学習、研究、地域等6つの機能

 1)学習図書館機能:北分館との役割分担を考えつつ、書籍のみならず、映像教材CD−ROMなど電子書籍、AV資料・機器を充実させる。学習スペースとしても、従来型のものとともに、個人コーナーやグループ学習室を、多数、配置する。そこでは、パソコン等の総合情報ターミナルとの接続、情報コンセント等の利用を可能とする。

 2)研究図書館機:文献、資料を直接利用しての研究スタイルに対応した機能の充実はは当然であるが、研究室からの電子情報の検索、収集、発信への支援が、図書館の非常に大きな役割となる。電子情報と自動入退館システムによって24時間利用が可能能となる。

 3)地域センター図書館機能:「開かれた大学」として北海道を中心に、地域の人びとの生涯学習や教育機関、産業への貢献、大学間の図書館職員の研修や業務提携を行う。「知の拠点」としての情報を充実し、住民との「交流ゾーン」も設置する。

 4)保存図書館機能:本学の蔵書は平成9(1997) 年3月末現在、 318万冊で年々7万冊増加している。今後、多様化と整理、電子化を行いつつも、いっそうの増加が予想され、コンピューター制御による全自動「ハイテク書庫」の設置や共同保存書庫も必要となる。

 5)電子図書館機能:迅速な電子資料の収集、作成と情報検索の高度化、キーワードで登録情報を自動的に利用者に知らせる「アラート機能」を実現する。当然、マルチメディアによる多面的情報の収集と発信をおこなう。

 6)総合図書館機能:諸機能の総合、部局間の総合、大学間の総合などの調整機能を分担する。その他、学習、研究、作業のあとのリラクゼーション、癒しの機能、化・芸術発信機能、高校生や次世代への情報コーナー、国際学術交流や留学生へのグローバルゾーン、デスタンス・エデュケーション支援のための衛星関連機能などを備える。

(5)“夢”の実現を

 本学附属図書館は、昭和33(1958)年8月に新営工事に着工し、その後、数次の増築を経て、現在、総面積17,342?(他に北分館4,696 ?)となっている。上記の21世紀の夢を実現するためには、予算、設備、人員(定員内45名)の不足はもとより、建物施設も現状でも狭隘化し、新機能の設備、スペースの実現は、新営をまたなければ十全なものとはならない。

 諸機能にもられた21世紀の夢を実現するために、すでに、各部局にも配布されているさきにあげた報告書をひとりでも多くの人たちが読み、検討し、“夢”をひろげてくれることを念願する。そのことが、未来への架け橋を現実のものとすることを助け、内実を豊かにし、実現後の積極的活用をもたらすのである。

 また、そのプロセスで、現実の狭隘化や不都合さを部分的にでも改善し、機能をひろげ、高度化する努力への力強い支援ともなる。

(たけだ まさなお)



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