韓国,シンガポール,マレーシアの図書館を見学して

附属図書館情報システム課目録情報掛長 山 口 國 雄
楡蔭 No.89(1994.3)より

 昨年10月末から2週間の日程で北大国際交流事業基金により,韓国,シンガポール,マレーシアの大学図書館,国立図書館を見学する機会を与えられた。初めての海外旅行で緊張に満ちた旅立ちとなったが,訪問先の各図書館で温かいもてなしをうけ,また,いろいろな方と出会うことができ実り多い旅となった。
 訪問した図書館は次の5館である。
  1.ソウル大学図書館(韓国)
  2.国立中央図書館(韓国)
  3.シンガポール国立大学図書館(シンガボール)
  4.シンガポール国立図書館(シンガボール)
  5.マラヤ大学図書館(マレーシア)
 欧米の図書館に比べるとアジア諸国の図書館事情については,これまで紹介される機会も少なかったので,ここでは簡単な沿革も含めて以下に印象をまとめてみたい。

1.ソウル大学図書館(Seoul National University Library)

 ソウル大学は旧京城帝国大学とソウル市内にあった9つの学校を合併して1946年に創立された韓国最初の国立大学である。1968年,医学部,農学部等を除く大部分の学部,研究所が市中心部から現在地の冠岳キャンバスに移転した。大学図書館は中央図書館,農学図書館,医学図書館,法学図書館からなり,蔵書数は160万冊。中央図書館は4.3Kmあるという広大な冠岳キャンパスのほぼ中央に位置し,6階建,30,505mのフロアスペースに4,000の閲覧席をもつ韓国最大の大学図書館である。
 図書館長の朴孝根先生は持参した北大図書館概要や北大図書館電算システム構成図を熱心に見てくださり,とりわけ当館が昨年からサービスを開始したCCoDマルチ検索システムに関心を示しておられた。先生ご自身CCoD:Agriculture,Biology & Environmental Sciences を利用されているとのことである。
 韓国における大学図書館の電算化に関しては,韓国国公立大学図書館長協議会が1991年に「大学図書館学術情報電算網構築計画書」を発刊し,大学図書館学術情報資料の共有体制の構築を提案している。この構想によると,ソウル大学図書館が大学図書館学術電算網の中央センターとなり,全国に9つの地域センターを設置して,この地域センターを中心にして大学図書館学術情報電算網を構築するという計画である。この計画の進捗状況等を聞きたいと期待していたのであるが,私が訪問した時はあいにく電算担当者が全員打ち合わせ中とのことで具体的な話を聞くことができなかった。ソウル大学図書館の電算化については,洋書目録がOPACで提供されていることなど部分的には稼働しているが全体としてはこれからのようである。
 この図書館では一般参考図書を配架してある参考閲覧室とは別に情報管理室が設けられている。情報管理室は文献検索を専門に行うところで,索引・抄録誌が置かれているが,各種CD-ROMの導入により最近は専らCD-ROMが使われているとのことだった。実際私が見学している間その部屋に設置されている5台のCD-ROM用端末は全部利用されていた。また,UnCoverも利用しており,文献の検索はもとより文献コピーの迅速な入手に努めているとのことだった。
 6階には旧京城帝国大学時代の蔵書が整然と保管されており,今も利用されているとのことである。館内はどの閲覧室も利用者で一杯だった。

2.韓国国立中央図書館(National Central Library)

 国立中央図書館は1923年に設置された旧朝鮮総督府図書面を第2次大戦後引き継ぎ,1945年国立図書館となり,開館された。1963年韓国図書館法の制定とともに国立中央図書館と改称し,その後1988年現在地に新築,オープンした。
 組織・機構は,館長の下に2部,7課,1室,1分館で構成され,職員数236,蔵書は200万冊である。まだ真新しい感じのする建物は,地下に書庫をもち,1階はレファレンスルーム,貸出カウンター,そしてカード目録と蔵書検索用端末がずらっと並んでいる。2階は閲覧室,3~4階は開架閲覧室と雑誌・新聞,5階は学位論文,視聴覚室,6階は事務スペース,7階は個人文庫.系譜資料室,貴重室となっている。5階の視聴覚室にはビデオ,CDなど各種メデイア機器が設置されており,私が見学したとき映画が上映されていて大勢の人が見入っていた。ソウル大学図書館もこの図書館もビデオ,CD等の視聴覚資料はかなり充実しておりよく利用されているようだ。7階の個人文庫は,学者・篤志家から寄贈された蔵書を旧蔵者に分けて保管・展示しているコーナーで,旧蔵者の肖像写真と経歴が入り口に掲げられている。このコーナーと隣接する系譜資料室では族譜を集中管理している。国立中央図書館は国内族譜の最大の所蔵館であり,地域と名前を言えば即座に関係資料を提供できるよう整理されているとのことである。
 国立中央図書館では1976年から図書館電算システムの開発に着手し,既に収書,目録,蔵書検索,雑誌管理,貸出管理等全業務を行う館内トータルシステム”CENTLAS゛を稼働させており,1982年以降受入れの資料約50万冊がデータベース化され,OPACで提供されている。1992年からはDACOM,HITELのネットサービスを通して自宅やオフィスからでも蔵書検索ができるようになった。一方,1992年より5年計画で「図書館情報電算網」(KOLIS-NET:Korean Library Information System Network)計画が推進されている。この計画は.韓国政府が進める「国家基幹電算網基本計画」下の「教育研究電算網」の中の1つで,国立中央図書館を中心として文献情報処理の標準出と図書館業務の電算化を行い,これをもとにして全国の図書館をネットワークで結ぶ計画である。この構想では,国立中央図書館の下い19の地域センターを置き,さらにその下に全国の350図書館が結ばれてネットワークを形成することになる。現在既に4地区センターが接続しているとのことである。

3.シンガポール国立大学図書館(National University of Singapore Library)

 シンガボール国立大学は1980年シンガボール大学(University of Singapore)と南洋大学(Nayang University)とが合併して創立された。シンガボール大学の起源は2つの高等教育機関,1905年創立の医学専門学校(のちにエドワード7世医学専門学校(King Edward Ⅶ College of Medicine)と改称)と,1929年に開校したラッフルズ学院(Raffles College)に遡る。第2次大戦後マラヤ連邦が成立し,1949年この両学校を合・してマラヤ大学が創設されたが,1959年シンガボール校とクアラルンプル校に分かれ,1962年シンガボールのマレーシアからの分離独立に伴いシンガポール大学となった。一方中国系の子弟を教育する大学として,1953年南洋大学が発足した。その後さまざまな曲折ののちシンガボール大学と南洋大学が合併することになり,1980年両大学は合併してシンガポール国立大学となった。大学図書館は中央図書館,医学図書館,法学図書館,自然科学図書館,中文図書館,Hon Sui Sen記念図書館の6図書館で構成されており,蔵書数は180万冊である。図書館長のJill Quah氏は何度か来日されたことがあるとのことで,「日本は大好きな国です」とおっしゃってくださった。日本や韓国では大学図書館長は教官がなるのが一般的だが,シンガボール,マレーシアでは図書館専門職の方が館長になられる。
 図書館入口を入ると左手にインフォーメーション・デスク,右手に貸し出しカウンターがある。インフォーメーション・デスクを通り過ぎるとレファレンス・ルームになっている。ここには一般参考図書の皿に地域資料としてシンガポール・マレーシアコレクションがある。このコレクションは,シンガポール,マレーシア,ブルネイおよびASEAN諸国に関する資料を網羅的に収集しているもので,現在約5万冊とのこと。図書ばかりでなく同地域に関する新聞記事の切り抜き,バンフレット類の収集も行っている。また,情報検索サービスとしては,PERIND(自館で作成しているシンガポール,マレーシア,ブルネイ,及びASEAN諸国の雑誌記事データベース)サーチサービス,DIALOG等の海外データベース検索を行うLOIS(Library Online Information Search)サービス,全部で70タイトルあるというCD-ROMによる情報検索サービス(このうちの数タイトルはキャンバスネットワークNUSNETを通して研究室からもアクセスできるとのこと)を行っている。
 貸出部門のスタッフは28人(専門職2,事務職員6,その他20人)おり,開館時間5:00-20:00(月~土曜日),9:30-16:30(日曜日)にあわせて1日4交代制をとっている。「職員数が多くて羨ましい」と言うと,そちらはどのようにしているか尋ねられたので,夜間開館については職員が交替で行っていること,超過勤務手当が支給されることを説明すると「超勤手当をもらえる方が羨ましい」と言い返された。相互貸借については,マレーシアへの貸出が多いこと,借りるときはオーストラリアから借りる場合が多いとのことである。
 電算化に関しては,図書館システムが完成,稼動している。蔵書検索システムLINC(Library Integrated Catalogue)端末は利用者用として中央図書館だけでも各階に合計25台設置されており,また,キャンパスネットワークNUSNETを通して学内のどこからでも検索きるよういなっている。この検索システムでは,発注中,整理中の図書も検索することができる。また,検索した図書が貸出中とか,禁帯出図書とかも表示され,貸出中の図書に対しては利用者端末から予約するができるし,貸出期限の更新もできるようになっている。目録システムとしては,後述するSILASに加入しており,SILASから書誌データを取り込んで目録データベースを形成している。
 6階にある日本語資料部は,1981年に人文社会学部に日本研究科が設立されたとき設置された。現在,スタッフ5名(兼任,パートを含む),蔵書数約25,000冊,雑誌170種,日本語新聞2種を受入れている。目録は現在のところカード目録を作成しているが,1994年より中国語,日本語資料の機械入力を行う計画で準備を進めているとのこと。設立以来,国際交流基金(Japan Foundation)の援助で資料を充実させてきたが,日本語図書は高いので予算的には苦しいと部門主任は話していた。
 3階の一角にパソコンが30台程並んだComputer-based Learning Roomがある。ここにあるパソコンは大学の計算機センターが提供しているもので,図書館は場所を提供しているだけとのことだが,学生はここで自由にネットワークアクセスやアプリケーションソフトを利用できる。今は休みに入っていて図書館の利用者は普段より少ないとの説明であったが,この部屋のパソコンはすべて学生によって埋めつくされていた。

4.シンガボール国立図書館(National Library)

 シンガポール国立図書館の歴史は,1823年ラッフルズが設立したシンガボール研究所(Singapore Institution)に附設された図書館にはじまる。その後1844年にシンガポール図書館となり,第2次大戦中の日本占領時代には閉鎖されたが,戦後の19577年ラッフルズ国立図書館法が成立,1958年国立図書館となり,活動を開始した。この図書館の特徴は国立図書館と公共図書館の機能をあわせもつ点にあるという。現在,中央館と8つの分館からなり,職員数402名,蔵書数300万冊,言語別にみると英語62%,中国語24%,マレー語10%,タミール語3%の割合となる。
 国立図書館の電算システムはNALINET(National Library Network)と呼ばれ,8つの分館すべてを結んでいるトータルシステムである。また,私が訪ねた日の丁度1週間前から運用を開始したというNLine(National LibraryLine)サービスがある。これは自宅やオフィスからパソコンを使って国立図書館の蔵書検索や貸出中の図書の予約,図書館案内を見ることができるシステムである。現在,開発・導入を計画しているコンピュータ・サービスとして,中国語資料の機械入力,貸出・返却手続の自動化(セルフサービス),全自動出納書庫の導入,Fulltextサービス等を検討しており,実現していきたいとのことである。
 国立図書館の機能として,全国書誌Singapore National Bibliography(SNB),雑誌記事索引Singapore Periodical Index(SPI)等を発行しているが,同時に書誌ユーティリティ機能をもつSILAS(Singapore Integrated Library Automation Service)の維持・管理に中心的役割を果たしている。SILASは書誌情報に関してわが国のNACSISと同様.US,UK,ANB,その他のMARCをもち,共同分担目録により総合目録データベースを形成している。現在,国立図書館,シンガボール国立大学図書館等45館が参加しており,図書165万冊,非図書資料(NIF,視聴覚資料等)10万点が登録されている。

5.マラヤ大学図書館(University of Malaya Library)

 マラヤ大学はシンガボールに1949年に設置された大学のクアラルンプル分校として1959年に設置され,1962年に至ってシンガポール大学から分離独立した。大学図書館は,本館と法学図書館,医学図書館等の10分館からなり,職員数280名,蔵書数110万冊である。1982年より図書業務の電算化を推進してきた。現在の蔵書検索システムは1992年から運用を開始しており,英語,マレ一語,アラビア語,タミール語資料が入力されている。全蔵書110万冊の70%が既に入力され,オンライン検索が可能になっている。利用者用OPAC端末は全学で50台配置されているという。中国語,日本語資料については未入力で現在もカード目録を維持しているとのことである。また,言語,資料の主題分野によってさまざまな分類表を使用している。英語,マレー語,アラビア語図書はLC分類,日本語,中国語図書はHarvard-Yenching分類,タミール語図書はBliss書誌分類,医学図書館ではNLM分類といろいろな分類表を採用している。
 1976年に設けられた国民資料部(National Collection Division)では,マレーシアに関する資料(何語でもどんな形態でも)およびマレー語,インドネシア語で書かれた資料を網羅的に収集している。この他,非ローマ字資料である中国,日本,韓国語資料を扱う東アジア資料部(East Asian Collection Division),タミール,サンスクリット語等を扱うインド資料部(Indian Studies Collection Division)も設けられており,それぞれ専任スタッフが配属されている。これら非ローマ字資料はアラビア語資料とともに別置されている。
 今回私が訪問した図書館はいずれもその国を代表する大図書館ばかりであったが,各図書館とも電子機器の導入やコンピュータネットワークを活用して積極的な情報サービスを展開しており,活気に溢れた図書館活動をしていることを強く感じた。また,図書館に女性職員が多いことはどこの国でも共通しているが,シンガポール,マレーシアの図書館では図書館長をはじめ各部門の責任者の多くを女性が占めており,自信に満ちた活躍ぶりが印象的であった。
 これらの図書館は,日本の図書館も含めてまだまだ発展途上の段階にあり,また,その発展段階は必ずしも一様ではないが,それぞれ与えられた条件の中で新しい技術を導入し,あるいは開発し,図書館サービスの向上に努めている姿が強く印象に残った。
 最後になりましたが,今回の訪問を受け入れ親切に応対して下さった図書館の皆さまに深く感謝申し上げます。また,この旅行にあたって学内の多くの方々にお世話になりました。心よりお礼を申し上げます。