BLDSC,英国大学図書館の旅

教養分館情報管理掛 佐々木 光 子
楡蔭 No.92(1995.3)より

1.はじめに

 '95年1月下旬,教養分館〔教養部廃止により平成7年度より北分館と改称〕にも4月からの本稼動を目の前にして附属図書館新システム用ワークステーション,Xステーションが搬入された。早速覗いてみる。Mosaicを選び試運転中の「北海道大学総合情報サービス」から「北大内のWWWサーバー一覧」を選択,メニューを次々クリックしていくと「内閣総理大臣官邸」やTulips(筑波大)等他大学の蔵書目録,サービスデータを自由に楽しめる。
 実は昨年9月,私はこの首相官邸の画像やスピーチデータやTulipsやWine(早大)などをロンドン.スクール・オブ・エコノミックス・ライブラリー(LSE)において,その学内情報サービスシステム(N-INFO)の説明を受けながら見せてもらっていた。初めて英国の大学図書館を訪ねた7年前(楡蔭No.73. '87 拙稿)は北大のCLARKも開始直後で,ロンドン大学の各図書館もOPACは自館の蔵書検索のみで、 COM(Computer Output on Microfische)が図書館間の情報交換手段と言う状態であった.
この間,高度情報化社会の先進米国の最新情報・調査報告等は,大学図書館分野にも日本のモデルとして大量に流入してきているが,欧州からの情報は非常に少ない。今回の北大国際交流事業基金に拠る英国の図書館訪問の旅は,長い伝統と歴史の上に培われた英国の図書館サービスがコンピュータ化,ネットワーク化に拠って更に飛躍的に拡充され,着実な利用者サービス向上が実現されている様子を尋ね歩く絶好の機会となった。

2.英国のネットワークとBLDSC

 英国には,我国のNACSIS-CATや米国のOCLCのような大学図書館の大多数が参加する全国規模で構築する書誌ユーティリティーは存在しない。 しかし,大学図書館ではCURL(Consortium of University and Research Libraries,ケンブリッジ,オクスフォード,ロンドンなど7大学参画データベース,書誌精度の高さ,無料等利用度が高い)等,又地域ネットのLASER(London and South Eastern Library Region),あるいはBIDS(Bath Information and Data Services,サイテイション・インデックス等のサービスネット)というように,JANET(Joint Academic Network,英国内の学術・研究機関を繋ぐ学術情報WAN)上には個別図書館の目録も含めて多種多様なデータベース情報が行き交い,ネットワーク上で相互にデータを提供・共有し合うことで,相互利用・資料の有効利用を実践している。 英国図書館文献サービスセンター(British Library Document Supply Center =BLDSC)はこのネットワ-クの要として,英国内のあらゆる図書館の相互利用活動のバックボーンの役割を果たしている。私自身にとっても,参考調査掛・医学部閲覧掛を通して雑誌論文探しの最後の拠り所であった。
 なお,英国図書館(British Library:BL)のロンドンサイトは1759年設立以来250年間本拠地としてきた大英博物館から程近いサント・パンクラスに広大な新図書館を建築中で、赤レンガのビルはほぼ出来上がったかに見える。今年のパンフでは,’96年サービス開始との案内,サント・パンクラス,キングズ・クロス両駅に隣接する新館での新たな活動の展開が期侍される。
 さて,BLDSCはイングランド北部ヨークシャーのボストン・スパののどかな農耕地のど真ん中に忽然として建ち現れる。スタッフの説明では「放射線汚染に強い」窓の少ない巨大なコンクリ-ト打ちっぱなしのビル。米国研修から帰国途上の阪大・山崎目録掛長とご一緒し,ます発注・受入から書誌作成(UK MARC)まで各部門の仕事を案内してもらう。途中書誌部でファンクションキー1ケでアラビア語やキリール文字に変身する魔法のキーボードに驚嘆したりしながら,いよいよ,情報処理工場と言われているILL(Inter-Library Loan)の部門へ。

BLDSC外観

 BLDSCの「1993/94サービス統計」に拠れば,年間ILL受付件数:370万件(英国内285万件,海外85万件,コピ-79万件,貸借6万件),1日平均14,000件。対する充足率はDSC所蔵分のみで89%,バックアップ・ライブラリーを含めると93%と高い。受付けから数時間以内,遅くとも48時間以内の発送を旨とするその姿はまさに世界のBLDSCと言うにふさわしい。 スピードアップ化で,依頼方法も郵送が年々減少し(34.2%),コンピュ-夕電送が増加(52.8%)。この高い充足率は700万件(図書300万,雑誌25万タイトル,学位諭文50万,学会・会議録33万...)を上回る所蔵資料に拠るが,この1年間の予算は400万ポンド,雑誌47,000タイトル,図書26,000冊,マイクロフォームレポート11万件等の収集に充てられている。これら資料と利用者の接合点に約750名のスタッフが活躍している。 申込受付専用のコンピュータ2台,隣室では5台のプリンターがフル回転でオーダーフォームを打ち出す。 書架の建ち並ぶ各階には各種複写機・コンピュータが配置され全館に敷かれたレールをオーダーフォームやコピーの入った送付Boxが走り回り,最終的に1階で包装・発送されるまで作業は徹底的に機械化・合理化され,ビル側面の発送口には1日5回郵便車が回ってくるとのこと。ビル内には.セールスアップを目指す国別,地方別,依頼方法別セールス統計表が掲示されていたりして,一方では現在のあり方の不経済性が指摘されたりするという状況のなかでのガンバリ振りも伺われた。
 我国のBLDSC利用は.1994年4月から学術情報センタ-,NACSIS-ILLによるサービスが開始され.各大学からOnlineでリクエスト,翌日センターから転送する方法で以前より少なくとも申込郵送時間の短縮が実現した。4月から1月末迄のDSCへの登録館72館,依頼実行館67館,依頼件数は約1,000件とのこと。北大の同期間中の海外への依頼375件中DSCへは約150件(内貸借11件)であった。
なお,DSCではBlaise-Line情報サービス部門を見学後,'95より販売開始予定の雑誌フルテキストをイメージデータとして送りつづけるという新製品のデモを見せていただき退出した。

3.大学図書館のOPAC

 まず,訪問先大学図書館を簡単に紹介し,後,印象をまとめてみたい。
 「地方の中堅大学の模範的図書館として,建物もサ-ビスも是非みてきたら!」 と薦められて訪ねたラフバラ工業大学図書館(Loughborough University of Technology:Pilkington Library)は,ロンドンからヨークへの途上。広々と緑豊かな構内に'80年建築の逆四角錘のユニークなデザインのビル,建物中心部に書架を集中し窓周辺を広く閲覧スペースに,備品は全て特注の白木材製で心地よく,業務用備品も工夫が凝らされている。利用者用ワークステーションの台数も提供されている情報の豊かさも,ILL申込1件4ポンドの支出以外,図書館に来さえすれば世界中のネットワーク上の上の全ての情報が自由に只で入手できる!
 冒頭で触れたロンドン大学のLSE(ここはBritish Library of Political and Economic Science:London School of Economicsの名の通り2館の機能を持つ)ではサービス開始から80週という最新自慢のネットワークシステム「N-INFO」を見せていただいた。初心者でも容易と言う使い勝手の良さで,ラフバラ同様,On-line information Services, NISS,Hytelnet,Gopher,WWW,Networked,CD-ROM....と情報提供はケチらない。

Bodleian Library

 そして,英国図書館史を体現してるかのようなオクスフォード大学ボドリアン・ライブラリ。14世紀に端を発し,その後1602年再建開館,英国図書館より150年も早い1610年にはロンドン書籍組合と納本協定(現在の納本館はBL,オックスフォード,ケンブリッジ等5館)を結び,蓄積された資料は,580万冊の図書を含む膨大なもの。今回は,ボドリアン図書館館内見学ツアーに参加してその威光の片鱗に触れさせていただいた後,ボドリアン図書館附属日本研究図書館(BSL=Bodleian Japanese Library)を訪ねた。
 英国CATは1990年にNACSISと英国図書館との国際接続が実現し,1992年からは,NACSIS-CATと接続して日本語資料の入力が開始された。現在,BL,ケンブリッジ,オクスフォード,シェフィールド,スターリング,ロンドン各大学が参加,目指すは英国内日本語資料総目録の編集などである。BJLばボドリアン図書館の日本語図書63,000冊,日本研究洋書9,000冊,雑誌など多数所蔵し,ボドリアン大学の日本研究図書館として任を担っている。 実際の目録業務は.日本国内のサービス時間後,英国時間で午後2時からの4時間がNACSIS接続の時間,目録端末・ソフト共日本からの提供で,日本人女性スタッフによる書誌作成の作業は私達と同じ(当然か),書誌調整など大変なので品質管理をよろしくお願いします,とのこと。ボドリアン図書館の日本語・中国語データベースはAllegroと命名され,'93年7月から既に9,000データが収納されている。
*ボドリアン図書館OPAC Menuを紹介すると([ ]が内容)
 1 BARD Bodleian Access to Remote Databases
        [BIDS,OCLC-FirstSearch,Internet,Gopher...]
 2 OLIS Oxford Library Information System
        [Network of libraries,Catalogues,Oxford's 62 Colleges]
 3 ALLEGRO (Chinese,Japanese Books & Journals)
 4 RSL Radcliffe Science Library
        [CD-ROM network, BA, GPO, INSPEC, Medline, etc. 26DB]
このほかに訪ねたいくつかの図書館も含めて,印象の1つめはやはり,キャンバス・ランに接続されたパソコン・ワークステーションを利用者用に多数備えたいという強い思い。

ワークステーションコーナー

 北大の新システムも幅広い利用者層に提供し使用される事によって更に洗練され内容豊かになろう。「総合情報サービス」の実現でメニューの豊かさでは問題をクリアしていけても,端末のこの少なさは,なんとも悲しい。旅先で「お宅のOPACは?」と聞かれ,教養生5,000人にたった3台でしかも自館データ検索のみとはとても言えず,「新システムに移行中」と..。
キャンバス・ランに載せる情報についても,ラフバラやウォーリック等の新進気鋭の大学は,広報,宣伝的内容もたくさんで,北大では一体どんな情報が欲しいのか? 図書館だけではなしに協議する場が必要なのでは?
 また一方,これだけ情報入手の技術が進んだなかでは,価値ある一次資料の収集,そのデータベース化と提供がいよいよ重みを増してくると,北方資料データベースの事など大量の貴重資料を所蔵する大学としての役割も考える。そのほか,非常に現実的なことだが,どの館も指定図書制度が効率的に運用されていて,貸出カウンターのすぐ側にたっぷりShort Loan Collectionを備え,利用規則も細やかにテキストや参考書のサービスをしている。北大は教養部廃止後,さてどうなるのだろうか? 更に,気配りの行き届いた親切,丁寧なサービス精神には学ぶ事が多い。制度のちがいはあるが,レファレンス・ライブラリアン(サブジェクト・ライブラリアン)の配置と案内,よく検討・準備された用途別多種多様の利用案内,パンフレット,マニュアルの類,各階に多数備えられているコピ一機とコピーカード自動販売機(パンフで必ず著作権啓蒙を)等など。
 以上,次元の異なることどもを乱雑に書き連ねてきましたが,私の報告とさせていただきます。最後に,今回の訪英の実現にかんしてお世話下さいました学内の方々,附属図書館,および教養分館の皆様に心よりお礼申し上げます。合わせて,夏休み期間中にも拘らず親切に対応して下さった訪問先,英国のライブラリアンの皆様に心から感謝申し上げます。