German Library
ドイツの大学図書館のスラヴィック・ライブラリアン
わが国では、〈スラヴィック・ライブラリアン〉、または〈スラブ研究ライブラリアン〉の呼称はあまり一般的ではありません。それゆえ外国でこのような名前で呼ばれる人たちが、どのような資格をもち、どのような仕事をしているのかもあまり知られていません。旧聞になりますが、昨年(1995年)の8月、ワルシャワで開かれた第5回中・東欧研究国際協議会世界会議でおこなわれたこの主題をめぐる報告の一つを紹介したいと思います。以下はパネルVI-10の共通テーマ〈スラブ研究ライブラリアンのプロフィール〉の中の V. ボックホルト氏(マルブルグ大学図書館)の「ドイツの大学図書館のスラブ研究ライブラリアンとしての訓練と仕事のプロフィール」[Dr. Volker Bockholt (University Library of Marburg, Germany): Profile of Training and Work as a Librarian for Slavic Studies in German Universtiy Libraries]と題した報告を簡単にまとめたものです。
1. ドイツの大学図書館における〈東欧・スラブ研究〉
ドイツでは、比較的僅かの大学の学部において〈東欧・スラブ研究〉全体のほんの一部分が研究されているにすぎない。それはスラブ言語学と文学および中・東欧とバルカンの歴史からなっており、法律、経済、教育、神学のような学問分野は、東欧研究については稀にしか教えられていない。東欧関係の研究にかかわっているアカデミック・ライブラリアンは、大学内では特別の地位と機能を持っている。このアカデミック・ライブラリアンは、原則として個々の大学図書館のスタッフ・メンバーである。
2. アカデミック・ライブラリアンの養成
ドイツの大学図書館におけるアカデミック・ライブラリアンは、普通は上級公務員の身分で養成されている。そのことはアカデミック・ライブラリアンが大学の学位と司書の資格をもたなければならないことを意味している。この司書資格はドイツの公務員になる正式の資格をもった人だけが入手できる。実際にはこの資格のための養成は二つの課程からなっている。
第1課程は大学の学位をもつことである。それは最終学位が学士号か、修士号か、大学卒業資格者か、または博士号かは問題ではない。それらの学位の一つを有する大学の卒業生が、司書資格者を養成する図書館での実習を志願することができる。アカデミック・ライブラリアンの養成は、地方自治のベースでおこなわれている。それは、実習中の司書がドイツの州の準公務員であり、実習がおこなわれる図書館学校または図書館に資金を支出する連邦州によって雇用されていることを意味する。
第2課程は図書館での実習である。実習は2年間続き、二つの部分にわけられる。1年目は、主として大学図書館で、働きながら実習司書として過ごす。実習生は、順番に図書館のすべての部門で働き、同時に図書館管理の授業にも出席する。実習の2年目は、図書館学校で図書館管理の理論を研究する。実習は大学または研究所や公共図書館に雇用されるためのアカデミック・ライブラリアンの試験で終わる。
実習の内容は複合的で、実際的な訓練と、理論的な基礎教育の講義や、専門的な文献の読書が組み合わされている。講義の中には、英・米・仏・露の図書館の組織に関する講義も含まれる。今日のドイツでは、司書職を管理する法律的な枠組みを修得することも、図書館史や図書館の現状と同様に実習の重要な一側面とみなされている。そのほかに書誌と新しい電子メディアについても実習がおこなわれる。
3. ドイツの大学図書館におけるアカデミック・ライブラリアンの仕事
規模と組織によって違いがあるが、ドイツの大学図書館では10〜20名のアカデミック・ライブラリアンを雇用している。アカデミック・ライブラリアンのおよそ4分の1は、受入、目録、相互貸借、大学内での部局図書館の調整などの部門の長として主に管理者的業務をおこなう。残りのアカデミック・ライブラリアンはコレクションの構築や主題カタログ、マニュスクリプトと稀覯書、オンラインによる外部のデータバンクからの情報の収集などに関して責任を持つ。アカデミック・ライブラリアンは図書館の各主題分野に精通しなければならない。それはコレクション構築の分野に責任をもつために必要なことである。
4. スラブ研究のためのライブラリアンの仕事
スラブ研究のためのライブラリアン即ちスラヴィック・ライブラリアンによりおこなわれる仕事の核心はコレクションを構成し、受入れの方針を決めることである。この点では彼の仕事は、他の主題分野に責任をもつ他のアカデミック・ライブラリアンと同じである。
一般にスラヴィック・ライブラリアンには次のような資格が必要とされる。
1)通常司書資格: 自館で使用される目録システムの規則と、種々のカタログの配列順序の標準化された規則などの知識。
2)専門的司書資格: 主要なスラヴ言語のキリル文字からラテン文字への翻字規則の知識、東欧の図書館システム及び東欧に関する書誌・カタログについての知識。
3)実践的専門資格: 東欧で話されているいくつかの言語知識(特にロシア語の知識は必須であり、不可欠)、さらに1ヵ国語あるいはそれ以上のバルト諸語、またはハンガリー語かルーマニア語の知識。
4)アカデミックな標準資格: 大学の学位取得のための研究を通して得られるスラブ研究及び東・中欧及びバルカンの歴史に関する内容と方法論の知識。[秋月]