「立体回路に関する一般論の試み」の概要
 
                      名誉教授(工学部)  松本 正
  論 文 名   立体回路に関する一般論の試み
  発表時期   昭和19年(194年)7月20日
  発表会議名 戦時研究会議
 
  第二次大戦(1941−1945)は正に科学技術の戦争であったとも言える。 特に我が国の電波技術の当初からの遅れと外国からの学術情報が全く断絶してしまった情勢下での対応策が必要となった。 そこで戦時研究会議が組織され、波長数cm下のマイクロ波帯の電波技術の研究が始まった。 この研究会議の委員長は、萩原 雄佑東京天文台長であり、委員には朝永 振一郎、小谷 正雄、永宮 健夫、園田 忍等我が国第一級の理論物理学、電気磁気学の学者がおられ、また若い委員としては宮島 龍興、伏見 康治、森脇 義雄、斎藤 成文、小生などであり、我々若い連中は上記の先輩教授達の研究発表や講話をきいて大きな刺激を受けた。
  この寄贈資料は、上記研究会において朝永先生が発表された際に配布された資料であり「立体回路に関する一般論の試み」と題する論文の全文で先生ご自身が書かれた原稿の冩しである。
  この論文における立体回路とはエネルギーの出入りする導波管が沢山ある空洞のことである。 論文はこのような立体回路についての一般論の構築に成功した研究成果について述べている。 このような回路では各ポートを通じて出入りする波の振幅や位相を論ずる事が一つの問題となる。 この種の問題を個々の場合について与えられた回路の諸条件すなわち、その形状、寸法、駆動の方法等に相当した境界条件のもとにマクスウェルの方程式を解けば問題が解けた事になる。 しかし個々の問題を個々の場合について解く前に一般的見通しを得られるような着眼の仕方を立てて置きたいと思うし、そうすれば複雑なパラメーターの多い実験事実を適当に整理したり、理論的計算を行うときに諸元の個数を減じて労力の節約が出来たりすることになるかも知れないし、また通常の回路網理論では「インピーダンス」と言う便利な概念を用いてこの種の一般的回路論が展開されているが、立体回路の場合にもある程度この概念がそのまま適用されて実用にかなり役立っているようであるが、問題によってはインピーダンスの概念では処理できないものにも当面せねばならないかも知れぬなど期待と不安に思い悩んだが、核反応を処理する方法を示したブライトの論文 (G.Breit:Phys.Rev.Vol.58(1940)、pp1061−1074)の数学形式にヒントを得て、良い結果を得た。
  この理論は古典物理学にマクスウェルの方程式を基本として利用されるものであり、対象とする空洞を含む導波管系の各部分の形状に拘らず一般論的に次のような結果を得ることが出来る。 1)エネルギー保存の法則、2)重ね合わせの原理、3)相反の原理等であり、さらにこれらを基にして、具体的な計算によらずに得られる種々の有効な結論を広く統一的に求めることができる。


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