情報技術の学内共通基盤の早急な確立を
 
大型計算機センター長 宮本 衛市
 
1 情報革命
 最近の計算機、さらにはネットワークの進歩には凄まじいものがあります。最近というよりは、今までずっと長足の進歩を遂げてきたといった方が適切でしょう。これからも発展のテンポは速くこそなれ、遅くなるような気配は感じられません。この進歩に無理やり対応させられ、我々はパソコンを数年で買い換えなければならない破目に追いやられております。学内のネットワークも、かつてのFDDI系のシステムからATM系のシステムに近々更新します。それはあたかも、やっとすれ違いながら行き来していた田舎道を、高速道路へ切り替えるようなものです。同じことを計算機で例えるなら、来年度に大型計算機センターで導入を検討しているスーパコンピュータは、列車からジャンボジェット機に換えるようなもので、そうするとパソコンは、さしずめ自転車といったところでしょうか。
 田舎道と高速道路、あるいは自転車とジャンボジェット機では、自らその使命が異るのは明白です。どちらか一方があればいいというものではなく、お互いに補完し合う関係にあります。また、乗り物はそれに対応した道が整備されていなければ無用の長物にすぎません。まさに、計算機とネットワークは乗り物と道の関係にあります。高速道路を自転車で走っても、快適かもしれませんが、インフラとしてはナンセンスですし、田舎道をジェット機なみの車で走ろうとしても、走れるものではありません。新鋭のスーパコンピュータを導入し、ATM系のネットワークを展開するということは、これまでとは意味の違う世界が出現することに対応します。間もなく実現する情報環境は、田舎道を自転車で走っていた風景を、高速道路を車で飛ばす風景に、そしていずれは飛行機が飛び交う風景に変えるようなことを意味します。我々はこのような変革を実感し、自らのものにすることができるでしょうか。できなければ馬の耳に念仏で、時代錯誤の世界に取り残されます。
 いうまでもなく、大学は最先端の教育研究環境を持つことが至上命題とされていますが、それを活用する技術がなければ宝の持ち腐れとなります。しかし、それを利用するには製造する技術に勝るとも劣らない利用技術が必要とされます。これまで自転車に乗っていたのが、一朝一夕で高速道路を車で走ることができないことを考えればよくわかります。それでも、我々は新しい技術を次々と自家薬籠中のものとしなければならない宿命を担っております。そうしなければ、教育研究で遅れを取るからです。しかし、単なる努力だけでは竹槍で鉄砲に向うだけです。技術には技術で対抗しなければなりません。
 
情報の利用技術とシステム技術の分離
 それでは、どうやって利用技術を獲得すればいいのでしょうか。ここでまた、車の例に戻ってみます。高速道路ができても、我々自ら運転しなければならないのでしょうか。運転すること自体が目的である趣味道楽は別にして、本来の目的は速く目的地に到達することのはずです。ならば、自分に技術がなければ、運転手を雇うことです。この運転手は車だけではなく、高速道路システムにも長けており、いわばハードウェアシステムに精通していますので、一部区間が不通になったり、新路線が開通すると、すぐ対応することのできる、プロの運転手です。
 しかしながら、何のために車を運転するのかは、雇い主が決めることで、運転手の関知するところではありません。雇い主は運転技術から離れ、もっぱら商売のこと、旅行のことなどを考えればいいのです。ここで、運転上の技術をシステム技術、雇い主のもつ技術、例えば高速道路を活用して商売するノウハウを(狭い意味での)利用技術と呼ぶことにします。
 ここまで巨大化し、複雑化した情報システムを教育研究に取り込むためには、個人的な力量では手に余るようになってきました。そこで私は、研究者あるいは管理者が本来発揮しなければならない利用技術に専念できるようにするため、彼等をシステム技術から解放すべきと考えます。そのためには、このシステム技術をサポートする研究技術集団が必要となります。大学で行われている教育研究上の利用技術は、民間の事業上の利用技術とは異り、先端的な、あるいは試行錯誤的な技術が要請され、民間に求めることは難しそうです。やはり学内でこのような研究技術集団を擁立すべきと考えます。
 かつては技能職として技官が、そしてガラス、木工、電気、機械などには専門技術をもった技官の定員が認められましたが、咋今ではこのような定員を獲得することは非常に困難です。一方、革命的ともいえる情報技術、そしてそれらを駆使しなければ教育研究上、致命的な後進性を甘受しなければならない現状において、本学が情報技術を支援する研究技術集団を確立することは焦眉の急と考えます。この研究技術集団を仮に「次世代情報技術開拓センター」と呼ぶことにします。この仮称は、このようなセンターに対する思い入れからつけた名前です。以後、これをセンターと呼ぶことにします。
 
情報技術の基盤整備
 それでは、このような研究技術集団に課せられる任務について考えてみます。ここでの技術は、あくまで計算機システム、ネットワークおよび関連機器に対する運転、管理、さらには構築に関するものであって、その目的に対しては原則としてタッチしません。利用目的は利用者が自由に描くものとしますが、経費上あるいは技術上、両者の密接な協議が必要であることはいうまでもありません。