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前にこの「本は脳を育てる」に岩波新書(青版)の鈴木八司『ナイルに沈む歴史』を推薦した際に、「最近(特に今世紀になってから)、岩波新書(新赤版)がつまらなくなってきた。」と書いたが、そうはいってもやはり岩波新書は「腐っても鯛」-という書き方は失礼かもしれないけれども-である。「岩波文化人」という、一種の鼻持ちならないエリートを作り出したという問題点はあるが、間違いなく日本近代、あるいは昭和以降の「教養」の担い手として大きな存在感を発揮したことは否定しようがない。この鹿野氏の著作は、岩波新書がどのような価値観を時代に対する「教養」として提供しようとしたかを縦軸(横軸でもいいのだが)とし、その一方で、そうした「教養」の受け手としてどのような読者層を想定しつつ刊行されてきたかを横軸として昭和以降の日本を描き出そうとしたものであって、狭く岩波新書の歴史だけを取り上げたものではない点が大きな特徴である。はじめに書いたように最近の新書赤版は少し魅力が失せていると感じられるのだが、それでもその時々の“現代”を示すバロメーターとして岩波新書は今後も大きな役割を果たし続けるだろう。こういう形での歴史の振り返り方・学び方もあるのだ、ということを強調し、興味ある人に手にとってもらいたいと思って推薦する次第である。
ちなみに、僕が岩波新書を評価するのは、NHK大河ドラマの翌年の主人公が決まるとその人物に関する本が刊行ラッシュとなる、という他の出版社の新書の滑稽な“お約束”と一切無縁で本を出し続けている、という点にあることを付言しておく。 |