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最近(特に今世紀になってから)、岩波新書(新赤版)がつまらなくなってきた。社会の流れが速くなるのに歩調を合わせすぎているのか、時事的なものが多くなり-それはそれで必要だと思うが-長く手元に置いて何度も繰り返して読みたくなるような内容のものが減っている気がする。ここに推薦する青版の『ナイルに沈む歴史』は、僕が中学生の時にでた本であるが、アスワン・ハイダムの建設によるアブ・シンベル神殿の水没を回避するための国際プロジェクトの一環として著者の鈴木氏が行ったエジプト・ナイル川上流地域の踏破記録である。それまでもハワード・カーターによるあまりにも有名なツタンカーメン発掘記など勿論読んでいたが、日本人研究者が一人でボロ船”エミーン号”に乗ってナイル川をどこまでもさかのぼりながら、その過程で目にした文物や人々を活写していく展開に、わくわくしながら読んだことを思い出す。それこそ気がついたら手垢が付いてぼろぼろになるほど繰り返し読んでいた。それが不思議な縁となったのかどうか分からないが、まさか20年後に僕自身がエジプトに赴任することになるとは思ってもみなかった。
現在は、考古学的発掘技術も格段に進歩し、吉村作治先生や近藤二郎先生が大活躍しているが、鈴木氏はその道を切り拓いた大先達である。どんなに時代が進んでもやはり先人の体験談は面白いし、今のエジプトを考える上でも貴重な歴史的意義を持つ資料であると思う。エジプトに関心がある人、考古学研究を目指す人にはお勧めの一冊であるし、面白い読み物を探している人も手にとってほしい。 |