「本は脳を育てる」について
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本は脳を育てる ~北大教員による新入生への推薦図書~ 

この企画は、主に全学教育担当の先生方が、学生の皆様に読んでほしい本を選んで、 紹介文を執筆くださっているものです。推薦されている本はすべて図書館で借りることができますので、 ぜひ気に入った本を読んでみてください(視聴覚資料は館内のみでの利用となります)。
"HONWA-NOWO-SODATERU":Reading nourishes your brain! - Suggested readings for freshmen
University Professors in charge of liberal education have recommended these books for student, along with their introductory essays. Seize the opportunity and read them-they are here for your education.
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  1. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    現代アラブ文学への扉 
    バイナル・カスライン / ナギーブ・マフフーズ. - 河出書房新社 , 1988     北大ではどこにある?
    『千夜一夜物語』以外でアラブ文学を読んだという人は、おそらくごく少数だろう。現代アラブ文学と聞いてもおそらく作家名もイメージも思い浮かばないと思う。かく述べる僕自身も、自分がエジプトに赴任するまでそれらについては全く知らなかった。ここに挙げる『バイナル・カスライン』とその著者ナギーブ・マフフーズについてもエジプトに行ってから周囲の同僚や学生たちに教えられて知ったのだが、その当時既にこの本を含む「現代アラブ小説全集」は刊行されていた。マフフーズは、アラブ世界初のノーベル文学賞受賞者(1988年)であり、僕がカイロにいたときにはまだ存命していて新聞に精力的にコラムなどを書いていた。

    この小説は、現在世界遺産になっているカイロ旧市街(イスラミック・カイロとも言われている)のバイナル・カスライン通りに住む商店主のアフマドとその妻、3人の息子、2人の娘の家族の生き方を描きつつそこにサアド・ザグルールとワフド党のエジプト独立運動という1917年前後の激動の歴史を絡めた大河小説である。家庭内では厳格に家族の上に君臨する父親でありながら裏では女遊びがやめられない因業なアフマドと、その夫にひたすら仕える後妻、反発しつつも父親と同じような人生を歩んでしまう長男、エジプト独立運動に身を投じる次男、エジプトを統治するイギリス人との間に友情を芽生えさせる利発な三男、そして娘たち、周囲の人々の運命が絡まり合いエジプト独立運動を背景に一気に結末へと突き進んでいく。上下二巻の大冊であり、最初のうちは、くどくどしいとさえ思われる心理描写や比喩に読みづらさを感じるかもしれないが、下巻に入ってサアド・ザグルールがエジプト独立を要求するあたりからストーリーは急展開しはじめ、読むのがやめられなくなるだろう。訳者の塙治夫氏は今年亡くなられたが、生前のインタビューでこの翻訳に対する日本人読者の反応について「一言でいえば『失望』です。」と慨嘆していらした。本当にそうした反応しか得られない作品であるかどうか是非読んで確かめられたい。この作品は、読者をマフフーズだけでなく現代アラブ文学に誘う扉となると信じている。

    なお、この標題となっている「バイナル・カスライン」通りは現在ではムイッズ通りという名前に変わっていて、世界遺産登録後は観光地区としてかなり整備されたらしいが、僕が行ったときには古い街並みの中に生活感とエネルギーが渦巻くわくわくするようなエリアだった。もしカイロを訪れる機会があったら足を運んでみることをお勧めする。

    登録日 : 2016-05-23
  2. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    「研究」ということの神髄に触れる 
    師範学校制度史研究-15年戦争下の教師教育- / 逸見勝亮. - 北海道大学図書刊行会 , 1991     北大ではどこにある?
    この本は、僕の専門分野と関わりがあるので読んだものだが、推薦文としては「良書だから読むべし!」としか言いようがない。実は,僕はこの著者である逸見先生(元教育学部長・現名誉教授)の“ファン”なのである。まだ逸見先生がご在職中にこの本を読んで疑問に思った点があったので、直接教えを請う機会をいただいたのだが、逸見先生のご教示、お人柄、生き方に痺れて、ファンになり今に至っている。その意味ではここに推薦するのが遅すぎたくらいだ。こういう推薦の仕方にきっと先生には眉をひそめられるかもしれないが、そこはお許しいただいて、多くの学生に読んでもらいたい。緻密な行論・内容もさることながら、行間から窺われる先生のお人柄に感銘を受けることがあるであろう。

    登録日 : 2016-05-15
  3. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    もう今はない旧制高校の青春とは 
    どくとるマンボウ青春記 / 北杜夫. - 新潮社 , 2000     北大ではどこにある?
    僕が大学時代に教えを受けた先生方の半数以上は、旧制高等学校の卒業生だった。旧制高校は、戦後は新制大学(の一部)になり、僕ら新制高校卒業世代は知識としてそういうものがあったという形でしか認識していないのだが、実際に旧制高校生活を送った先生方にはその後の人生のスタイル(というと安っぽく聞こえてしまうが)を決定するような大きな影響力のある教育機関だったらしい。最早体験的に知ることのできない、そうした旧制高校の魅力とそこで学生生活を送った著者自身の内面的な成長過程、そして、思わず笑いを誘う、あるいは人生の意味を真剣に考えさせるエピソードの数々は時代を超えて心に響くものを持っている。

    僕は北杜夫の作品が大好きで、小学校6年生のときに『どくとるマンボウ航海記』を読んでからずっと愛読してきたが、この作品は数ある北杜夫の著書の中で僕にとってはベストワンであり、今でも授業のネタに使ったりしている。是非長く読み継がれる本であってほしいとの願いを込めてここに推薦したい。


    登録日 : 2016-05-15
  4. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    長編の魅力ここにあり 
    チボー家の人々 / ロジェ・マルタン・デュ・ガール. - 白水社 ,      北大ではどこにある?
    実は僕は長編小説(特に日本の)を読むのは苦手である。登場人物が多くなるので関係を覚えきれない、というより覚えるのが面倒くさいという怠惰な精神のせいなのだが、その結果として山岡荘八『徳川家康』、中里介山『大菩薩峠』、塩野七生『ローマ人の物語』、埴谷雄高『死霊』と、挫折した作品は死屍累々である。その割に西洋文学の長編はなぜか日本文学ほど抵抗なくダンテ『神曲』、デュマ『モンテ・クリスト伯』、そしてこの『チボー家の人々』は結構夢中になって読めた。特に『チボー家の人々』は第一次大戦期のフランスという一種重苦しい時代を描きつつも主人公となる、アントワーヌ、ジャックのチボー兄弟とジャックの友人であるフォンタナンの3人の造形がしっかりしていてこれらの登場人物の魅力に引きつけられて読んだという面が強い。同時に今にして思えば、カトリックのチボー家とプロテスタント(本文ではユグノーとも書かれている)のフォンタナン家の宗教対立を背景とした微妙な絡まり合いが伏線としてこの作品を貫いていることも内容に深みを与えていると感じられる。青年期の多感な若者たちがどのような問題と向き合いいかに成長していくか、は洋の東西を問わず重要なテーマであるが、この作品ではチボー家の父の死を転機として時代が急展開し第一次世界大戦に入っていく。その中で3人が三様に戦争で傷つき命を落とす形で終盤へと一気に展開が加速していく。家族、若さ、男の友情、兄弟愛、男女の愛、宗教をめぐる葛藤、そして戦争に赴く若い命、こういった現代にも通じる問題を飽きさせることのない展開で一気に読ませる著者の筆力にはあらためて感動する。そこには、この本を達意の日本語に訳した訳者・山内義雄氏の多年にわたる努力があったことを忘れてはならない。よい訳者を得て優れた文学が日本語で読めるということの幸せを感じることができるだろう。

    今は白水社Uブックスで読める様になっているが個人的には黄色い表紙の5冊本が懐かしい。

    登録日 : 2016-05-13
  5. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    岩波新書は不滅です! 
    岩波新書の歴史 : 付・総目録1938-2006 / 鹿野政直. - 岩波書店 , 2006     北大ではどこにある?
    前にこの「本は脳を育てる」に岩波新書(青版)の鈴木八司『ナイルに沈む歴史』を推薦した際に、「最近(特に今世紀になってから)、岩波新書(新赤版)がつまらなくなってきた。」と書いたが、そうはいってもやはり岩波新書は「腐っても鯛」-という書き方は失礼かもしれないけれども-である。「岩波文化人」という、一種の鼻持ちならないエリートを作り出したという問題点はあるが、間違いなく日本近代、あるいは昭和以降の「教養」の担い手として大きな存在感を発揮したことは否定しようがない。この鹿野氏の著作は、岩波新書がどのような価値観を時代に対する「教養」として提供しようとしたかを縦軸(横軸でもいいのだが)とし、その一方で、そうした「教養」の受け手としてどのような読者層を想定しつつ刊行されてきたかを横軸として昭和以降の日本を描き出そうとしたものであって、狭く岩波新書の歴史だけを取り上げたものではない点が大きな特徴である。はじめに書いたように最近の新書赤版は少し魅力が失せていると感じられるのだが、それでもその時々の“現代”を示すバロメーターとして岩波新書は今後も大きな役割を果たし続けるだろう。こういう形での歴史の振り返り方・学び方もあるのだ、ということを強調し、興味ある人に手にとってもらいたいと思って推薦する次第である。

    ちなみに、僕が岩波新書を評価するのは、NHK大河ドラマの翌年の主人公が決まるとその人物に関する本が刊行ラッシュとなる、という他の出版社の新書の滑稽な“お約束”と一切無縁で本を出し続けている、という点にあることを付言しておく。

    登録日 : 2016-05-08
  6. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    日本語研究の面白さに触れる 
    ヴァーチャル日本語役割語の謎 / 金水敏. - 岩波書店 , 2003     北大ではどこにある?
    最近は学問研究、あるいは学術研究の対象化のペースが極度に速くなっていて、ついこの間「オネエ言葉」という表現が使われ出したと思ったらもうオネエ言葉の研究書が出ている、といった具合である。この本は、様々な職業・性別・時代等々に応じて現れる固有の(と見える)表現を「役割語」という概念によって分析することで見えてくる日本語の姿を明らかにしたものであるが、古今東西の文学作品からマンガ、はては『スター・ウォーズ』から『ハリー・ポッター』まで題材にしてまさに縦横無尽に切りまくる、読み応えのある一冊となっている。日本語に興味はあるが難しそうで、と二の足を踏んでいる人もこの本の展開にはきっと引き込まれるだろう。日本語のみならず言語研究に興味のある人には是非読んでもらいたい。

    なお、付言しておくと、国際本部グローバル教育推進センターの同僚である鄭惠先先生はこの分野の先端的な研究者でもある。この本を読んで引きつけられるところがあったら併せて鄭先生の授業も履修してみてほしい。

    登録日 : 2016-05-02
  7. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    巧妙化・複雑化する戦争ビジネスを知る 
    民営化される戦争-21世紀の民族紛争と企業- / 本山美彦. - ナカニシヤ出版 , 2004     北大ではどこにある?
    戦争に関わる企業と聞くと、兵器・武器の製造売買を行う-古いことばで言えば-「死の商人」が思い浮かぶ。それはそれとして現在もあることに変わりはないが、この本を読むと、思いがけないところで思いがけない企業が、国家(この本で主題的に取り上げられるのはアメリカだが)の中枢部と結託して戦争の後方支援活動などに食い込み利益を上げていることが分かる。さらには、こうした企業が、アフリカなどの資源を保有する後進国で資源ビジネスに目を付けてに内戦=民族対立や紛争を煽っている構図までもが明らかにされる。民族紛争の解決と貧困の撲滅は間違いなく21世紀の世界的課題であるが。北海道大学が、「世界の課題解決に貢献する北海道大学」という目標を掲げている以上、そこに学ぶ者として一度は目を通しておく必要がある本である。

    登録日 : 2016-04-11
  8. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    日本語教育と国語教育をめぐる日中の結びつきを知る 
    現代中国の日本語教育史-大学専攻教育と教科書をめぐって- / 田中祐輔. - 国書刊行会 , 2015     北大ではどこにある?
    僕が30年以上前、初めて日本語教育に関わったときに学校から与えられた教科書は東京外国語大学附属日本語学校編『日本語Ⅱ』だった。内容を一目見て驚いたのは、僕自身が小学校の国語教科書で勉強した文章が幾つか教材として課を為していることだった。当時、日本語教育についての知識も技術もろくになかった僕でも「日本人小学生向けの教科書と外国人留学生向けの教科書が同じでいいものか」と疑問に思ったのを覚えている。しかし、実態としては、日本の国語科教科書の文章は、様々な形で外国人向け日本語教科書に取り入れられていたのである。そして、それは日本国内で出版された教科書だけでなく、海外で出版された教科書でも同様であったことが、この田中氏の研究によって(中国に関してであるが)実証的に明らかにされ、そのような教材選択が為された思想的背景が綿密に解明されている。日本語教育史研究は、近年徐々に研究者が増えているとは言うものの、その対象領域や方法にはまだ大きな進展が見られるとは言いがたい。その中で、この田中氏の著書は、従来の研究の枠を超えて日本語教育史研究を前進させる優れた労作である。序文だけで優に100ページを超えるそのボリュームにまず圧倒され、内外の文献を渉猟して丹念に論を積み上げる田中氏の知的努力は、この分野に限らず人文社会系の学問を志す人に大きな知的刺戟を与えるであろう。僕自身は、同じ日本語教育史研究者としてこの本を読んで完全に打ちのめされて自信喪失状態であるが、将来さらにこれを超える若い研究者の北大からの出現を期待し、多くの人に読んでもらいたいと考える次第である。

    登録日 : 2016-03-15
  9. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    よりよい働き方をどう実現するか 
    個人を幸福にしない日本の組織 / 太田肇. - 新潮社 , 2016     北大ではどこにある?
    この本は、標題だけを見るとかつてのカレル・ヴァン・ウォルフレンの『人間を幸福にしない日本というシステム』の二番煎じのように見えてしまうが、内容は組織論あるいは経営制度論の観点から見た日本人の働き方/働かせ方の批判的考察である。これを読むと、企業も学校も芸能界も自治体も町内会も、およそ人が集まって作られる目的集団がいかに機能不全を起こしやすいかがよく分かる。筆者はその点について、かなり大胆な処方箋を提示してくれているが、欲を言えばもう少し突っ込んで対策を書いてくれるとより面白くなったと思う。自分の将来の仕事のあり方として会社勤めを選択する人だけがいるわけではないだろうが、個人事業主を選択したとしても、そこで働いたことを現金収入に変えるためにはどうしても組織と関わらねばならない。そのときに少しでもよりよい働き方を選ぶにはどうしたら良いか考えるための好適な本である。

    登録日 : 2016-03-14
  10. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    もう一つの日本の理論物理学形成史 
    科学ジャーナリズムの先駆者 評伝 石原純 / 西尾成子. - 岩波書店 , 2011     北大ではどこにある?
    石原純という名前を初めて見たのは、大学時代に西田幾多郎の哲学を勉強していたときであった。西田の弟子であった下村寅太郎の文章中に、日本に於ける相対性理論の紹介者といった形で名前が出ていたのを覚えている。この本では、物理学者、相対性理論の研究者・紹介者という面だけでなく、科学ジャーナリストとしての石原に光を当てて多くのページを割いている。昨今、自然科学研究の世界では研究の確実性やその情報の透明性を揺るがすような事案がいくつか起こった。(勿論、人文社会科学でも同様のことはあったし、今後もあり得る。) このような時代に、科学研究の内実を的確かつ公正に伝える仕事の意味はますます大きくなっていると言わねばならない。北大には、そういった人材を育てるCoStepというプログラムもある。大学・研究室と市民・国民との間の情報の橋渡しを仕事としたいと考える学生には、この本を通して石原の生涯を知り、その精神を学んでほしいと思い、ここに推薦する。

    登録日 : 2016-03-12
  11. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    多文化社会とは? 
    多文化教育の研究ーひと、ことば、つながりー / 朝倉征夫. - 学文社 , 2003     北大ではどこにある?
    「多文化社会」や「異文化(間)コミュニケーション」というのは今や大学教育に於ける”流行語”と言ってもいいと思うのだが、他でもないこの北大で「多文化交流科目」を担当していると、学生の殆どが(場合によっては教員も)「多文化」あるいは「異文化」ということを”外国人(非日本人)との交流”だと思い込んでいる実情が見られ、そのたびになんとかしなければ、と思ってしまう。

    この本は三部から成るが、第一部の総論を除くと、半分を占める第二部は外国(人)に関する「多文化」状況ではなく、この日本国内に於いて文化的背景を異にする人々に関する考察である。日本(という国)が「一国家・一民族・一言語」の国だというオメデタイ-と敢えて書こう-発想を当たり前にものとしている学生諸君には是非読んでいただきたい。日本は既に「多文化」状況にあることが理解できるであろう。しかし、そこで考えることを止めないで、その「多文化」状況を見えにくくしているものは何か、ということにさらに考えを進めてほしい。そこから、新たな日本社会の可能性が開けると思う。

    登録日 : 2016-03-12
  12. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    西洋哲学の基本の「き」 
    方法序説 / ルネ・デカルト. - 岩波書店 , 1997     北大ではどこにある?
    「われ考える、ゆえにわれあり」や「明晰判明」、あるいは”方法的懐疑”といったことばであまりにも有名な、西洋(近世)哲学の始まりを飾る書である。哲学書というと初めから難しいものと考えて敬遠してしまう向きもあるかもしれない-そのような書物があることを否定はしない-が、この本は、きちんと読んでいけばそれなりに分かるように書かれているものである、同時にまた、西洋近世~近現代の哲学が多くの考えるべき課題をそこからくみ取っていった、西洋の知の基本をなす書物でもある。そのようなものを読んでおくことは、洋の東西を問わず学問を研究しようとするものにとって無駄ではないであろう。

    登録日 : 2016-03-12
  13. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    ことばはどのように情報を伝えるのか? 
    文法と談話の接点-日本語の談話における主題展開機能の研究- / 砂川有里子. - くろしお出版 , 2005     北大ではどこにある?
    この本は、本格的な専門書であるが、丹念に読んでいけばきちんと分かるように書かれた本であり、日本語の働き方について新しい知見を与えてくれるものである。専門的に言えば、談話文法を機能言語学的に考察したものであるが、その内容を噛み砕いて言うならば、日本語の中でどのように情報が情報として現れそれが伝えられていくか、そのメカニズムを明らかにしたものである。将来日本語について研究してみたいと考えている人や、既に談話文法に関心のある人に広く一読を勧めたい。

    登録日 : 2016-03-12
  14. 推薦者 : 河合剛  所属 : メディア・コミュニケーション研究院

    敵を知り己を知れば、のうち後者 
    The Inner Game of Tennis: The Classic Guide to the Mental Side of Peak Performance / W. Timothy Gallwey. - Random House Trade Paperbacks , 1997     北大ではどこにある?
    題名の「テニス」を無視していただきたい。
    いまふうに言えば「メンタルを鍛える」のが本書の目的。
    己を知り、己を信ずる。運動はもとより、楽器演奏、学会発表、そのほか、練習を重ねて、いざ本番、力を出し切るための精神一到。その手段が、ときに神秘的に、ときに論理的に記されている。
    一般に、日本のコーチングは禁止命令が多い。「やめたら負けだ」「そんな態度じゃダメだ」「また間違えた」「何度いったらわかるんだ」
    アメリカも臭い精神論がちゃんとあるのだが、一般に見かけはポジティブ。「あそこが理想だ。ここが現在地だ。勝つまで続けるぞ」
    本書から、アメリカ風の冷静・分析的な精神論を知り、無我夢中になりがちな日本のやり方と比較しながら、自分の練習法を編み出しては、いかが?

    登録日 : 2016-02-21
  15. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    わくわくするナイル源流への旅の記録 
    ナイルに沈む歴史-ヌビア人と古代遺跡- / 鈴木八司. - 岩波書店 , 1970     北大ではどこにある?
    最近(特に今世紀になってから)、岩波新書(新赤版)がつまらなくなってきた。社会の流れが速くなるのに歩調を合わせすぎているのか、時事的なものが多くなり-それはそれで必要だと思うが-長く手元に置いて何度も繰り返して読みたくなるような内容のものが減っている気がする。ここに推薦する青版の『ナイルに沈む歴史』は、僕が中学生の時にでた本であるが、アスワン・ハイダムの建設によるアブ・シンベル神殿の水没を回避するための国際プロジェクトの一環として著者の鈴木氏が行ったエジプト・ナイル川上流地域の踏破記録である。それまでもハワード・カーターによるあまりにも有名なツタンカーメン発掘記など勿論読んでいたが、日本人研究者が一人でボロ船”エミーン号”に乗ってナイル川をどこまでもさかのぼりながら、その過程で目にした文物や人々を活写していく展開に、わくわくしながら読んだことを思い出す。それこそ気がついたら手垢が付いてぼろぼろになるほど繰り返し読んでいた。それが不思議な縁となったのかどうか分からないが、まさか20年後に僕自身がエジプトに赴任することになるとは思ってもみなかった。

    現在は、考古学的発掘技術も格段に進歩し、吉村作治先生や近藤二郎先生が大活躍しているが、鈴木氏はその道を切り拓いた大先達である。どんなに時代が進んでもやはり先人の体験談は面白いし、今のエジプトを考える上でも貴重な歴史的意義を持つ資料であると思う。エジプトに関心がある人、考古学研究を目指す人にはお勧めの一冊であるし、面白い読み物を探している人も手にとってほしい。

    登録日 : 2016-02-08
  16. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    「分からなさ」を味わい、楽しむ 
    哲学とは何か / ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ. - 河出書房新社 , 1997     北大ではどこにある?
    この推薦文は、「本は脳を育てる」の趣旨には反するが、たまにはこういった推薦もあっていいのではないかと思い、ここに挙げることにした。

    哲学の本を数多く読んできたが、これほど分からない本を読んだことはない。普通は分からなければなんとか分かろうと努力し、それなりに考えながら読むものであるが、この本は読んでも読んでも分からず、そのうちにその「分からなさ」が心地よく思えてきさえする。読んでいる自分が「分からなさ」という感覚に身をゆだね、それを楽しむ境地(?)に至った気分になってくるのである。それは著者両名の巧妙な仕掛けにあり、著者たちはおそらく読者の「分かりたい」という”欲望”そのものを謂わば笑い飛ばすかのような叙述を積み重ねることを通して、「哲学とは何か?」という問いそのものを破壊すること自体が実は「哲学(の実践)」なのだと言おうとしているのではないか。最後まで、取り敢えず活字を追ってみた後にそのような感覚が残った。


    登録日 : 2016-01-28
  17. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    文学という営みを通してみた日本人像とは 
    近代日本人の発想の諸形式 / 伊藤整. - 1981 , 岩波書店     北大ではどこにある?
    標題となっている論文で、著者は、日本人の手によって行われた文学(創作と作品)を「逃避型と破滅型」、「上昇型と下降型」等いくつかの切り口から鋭く考察し、日本に於いてその文学的な風土がどのように形成されたかという問題に取り組んでいる。その過程で一つの鍵となるのは、創作の専門性とそれを体現する”文士”という存在である。そうした観点から見たとき、多くの人が常識的に(?)受け止めている「文豪」漱石と鴎外への批判は苛烈を極める。

    20世紀末から日本哲学(史)の研究が徐々に隆盛の兆しを見せてきたが、哲学研究者とは別の(「異質」と言っても良いかもしれない)観点から日本人のものの考え方を明らかにしようとした伊藤整の努力の過程を今読み返すことにはそれなりの意味があると思う。

    登録日 : 2016-01-11
  18. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    留学したい人は必読! 
    バイカルチャルになれる人・なれない人-アメリカで変わる日本人- / 本田正文. - 丸善 , 1999     北大ではどこにある?
    この本は、大きく分けると著者である本田氏がアメリカ留学の中で体験した異文化適応の過程の紹介と、専門とする第二言語習得理論(から見たバイリンガリズム)の概説をバイカルチャルという観点で融合させていこうとしたものである。こう書くとなにやら難しそうな本のようであるが、そのようなことはない。むしろ、本田氏が実際にアメリカで何に苦労しそこからどのような「智慧」を見いだして異文化での生活を成り立たせていったかが、時にユーモアを交えながら成長段階を追って書かれている。

    これから海外留学を目指す人には色々な希望と不安があると思うが、留学生活が少しでも良い形で終わるための一助となればと思い、その好適な指南書(というのは古いか?)として薦めたい。

    登録日 : 2016-01-11
  19. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    科学という営みを伝えることの大切さを知る 
    ロウソクの科学 / マイケル・ファラデー. - 岩波書店 , 2010     北大ではどこにある?
    この本は、まさに「古典」という名にふさわしい有名な本だから既に読んでいる人が多いかと思うが、今の学生は(ああ、これもまた「古典」的な説教口調だ!)「古典」をあまり読まないらしいので推薦する意味はそれなりにあるだろうと思う。

    僕が小学生の頃は、雑誌『子供の科学』が毎月発刊されるのが待ち遠しく、またあかね書房から『少年少女最新科学全集』が刊行され、所謂”科学読み物”が一つの隆盛を迎えていた時代であった。その時期にこの『ロウソクの科学』と初めて接したのであるが、小学生が読むには少し手強かった。僕は、日下実男訳の旺文社文庫版(今は廃刊)で読んだのだが、最後まで読み通せなかった記憶がある。今あらためて読み返してみると(勿論昔と今の知識量の違いはあるが)、ロウソクという身近なものを通して化学的現象のメカニズムを色々なデモンストレーションと共に説き明かし、説き進めていくファラデーの語りの見事さに深い感動を覚える。特に、酸素、窒素、炭素の存在を明らかにしていく実験と説明の手際の良さは、研究者だけでなく(どのような科目を教えるにしても)教育者も大いに見習うべきものと考える。科学/化学に関心がある人だけでなく、教育者を目指す人にも分野に拘わらず是非読んでほしいと思う。

    登録日 : 2016-01-01
  20. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    世界に働く根本的な力を考える 
    歴史の終わり(上・下) / フランシス・フクヤマ. - 三笠書房 , 1992     北大ではどこにある?
    個人的に2015年はあまり面白い本にめぐり逢わなかった1年だった。その中では比較的面白かったのがこの本である。1992年に刊行されたこの本を20年以上経って読んでみると、著者が重視するリベラルな民主主義が現在の世界で置かれているアクチュアルな立場をよく見通すことができる。20年以上前に書かれた本ではあるが、そこに含まれる観点は20年そこそこの時間の経過の中では古びてしまうということはなく、今なお国際政治・国際関係を考える上で必要な知見を提供してくれると思う。

    登録日 : 2016-01-01

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